表題番号:2008B-306 日付:2009/03/31
研究課題労働法の「境界」(Boundaries)に関する比較研究―予備的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 石田 眞
研究成果概要
本研究は、近年の規制緩和の下での企業組織の変動や雇用形態の多様化の中で、伝統的労働法が様々な局面で危機をむかえているという認識のもと、労働法の「境界」を探ることによって新たな労働法のあり方を検討しようとするものである。こうした伝統的労働法の危機の打開策を労働法の「境界」という視点から検討する研究はすでにいくつからの国で行われており、私たちは、労働法の「境界」問題を比較研究として行うことは、単に有益であるというだけではなく、わが国の労働法の未来を探るうえで必要なことであると考えた。ただし、ただちに比較研究を行うことは焦点が定まらないことにもなるので、この特定課題研究として行ったのは、比較研究の課題を明らかにするための<予備的考察>であった。
 本研究においていう「危機をむかえている伝統的労働法モデル」とは、<企業組織の範囲を法人格で画され、かかる企業組織における使用者と期間の定めのない労働契約を締結した男性のフルタイム正規労働者を主たる規制対象とする労働法モデル>である。そこでは、「使用者」とは誰であるのか、「労働者」とは誰であるのか、男性と女性はどのように扱われるべきかなどが労働法の「境界」をめぐって問題となる。
 本年度の研究において、研究代表者である石田眞は、「労働市場」や「企業組織」といった経済システムを構成する要素に労働法学がどのようにアプローチできるのかという観点から問題に迫り、研究分担者である島田陽一は、「労働法における企業概念」を検討することによってわが国における正規・非正規の格差問題に迫り、研究分担者である清水敏は、「公務部門における就業形態の多様化」が労働法にどのような影響を及ぼすかを探り、研究分担者である浅倉むつ子と大木正俊は、男女間および労働者間の賃金格差問題を雇用平等の観点から検討した。