表題番号:2008B-281 日付:2009/02/17
研究課題ミレニアム開発目標とグローバル・ガバナンス―国際保健における国連と企業の連携―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院アジア太平洋研究科 教授 勝間 靖
研究成果概要
 5歳未満の子どもの死因の多くは、予防可能な疾病である。肺炎を含む呼吸器系の感染症(29%)、下痢症(17%)、マラリア(8%)、はしか(4%)、母子感染によるエイズ(3%)が主な疾病であるが、すべての死の半分において低栄養も要因となっている。工業国では予防されている疾病が、途上国においては未だに猛威を振るっている。とくにアフリカにおいてはマラリアが第1の死因となっている。マラリアによって、世界の107の国や領土に住む32億人もの人びとが危険にさらされている。また、地球温暖化によって、最大で4億人が新たにマラリアの危機に直面するという。こうした感染症は、人間の安全を脅かしている。
 マラリアは、貧困の結果であると同時に、貧困の原因でもある。アフリカはマラリアによって毎年120億米ドルの国内総生産を損失していると推定される。また、マラリア患者をもつ世帯は、限られた所得から治療費を捻出しなくてはならず、貧しさから抜け出すことが難しい。さらに、マラリアで苦しむ子どもは、学習に集中できず、教育を受ける機会を失う傾向にある。その結果、貧困が次世代へと引き継がれ、悪循環が起こる。
 2000年の国連総会で『国連ミレニアム宣言』が採択された。2015年までに国際社会が達成すべき「ミレニアム開発目標(MDGs)」が設定された。具体的には、「極度の貧困と飢餓の軽減」「初等教育の完全普及」「ジェンダー平等と女性の地位向上」「乳幼児死亡の削減」「妊産婦の健康の改善」「HIV/エイズ、マラリアなどの疾病の蔓延防止」などである。2008年は、MDGsの達成年限である2015年に至る中間年でもある。日本は、第4回アフリカ開発会議(5月)と北海道洞爺湖G8サミット(7月)の開催国として、「人間の安全保障」の視点からグローバル・ヘルスの国際政策形成に貢献した。その結果、『国際保健に関する洞爺湖行動指針』においては、1億張りの蚊帳の供与が掲げられた。
 MDGsへ向けてすぐに結果を出せる行動の一つとして、子どもへの蚊帳の配布を挙げられる。途上国の現場における実際の配布では、NGOなどによって社会的マーケティングの手法が使われることが多い。こうしたなか、民間企業の技術革新によって、長期残効殺虫蚊帳と呼ばれる新しい蚊帳が開発された。これは、高い殺虫効果が5年持続する蚊帳である。WHOが最初に承認したのは、(株)住友化学が開発した「オリセット」と呼ばれる蚊帳である。この生産量が増え、単価が下がり、アフリカの一般の人びとが入手可能になることが期待される。しかし現時点では、市場が十分に形成されていないため、途上国による努力に加えて、ユニセフのような国際機関による調達が必要である。また、そのためには工業国からの資金協力も不可欠である。蚊帳の技術革新と普及においては、産官民パートナーシップが求められているが、そのためには学際的な研究が重要だと考えている。