表題番号:2008B-275 日付:2011/11/24
研究課題国際裁判における訴訟戦略からみた国際法の理論と実際
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 教授 池島 大策
研究成果概要
 国際裁判が紛争解決の手段として果たす役割は、ある紛争の主題に関する解決という観点からは、限定的なものにとどまる場合が少なくない。紛争当事者による合意が、紛争の主題の明確化、解決後の見通しの具体化などについても予め行われていないと、国際裁判による判決の効果として、その履行確保が脆弱なものとなる。
 こうした前提を踏まえて、訴訟戦略を立てることが、国際裁判の一層有効な利用方法となるとはいえ、紛争当事者間の交渉や協議という二国間対話をどのように進めるかは、紛争の根本的な決着という点できわめて根源的かつ重要なポイントであり、むしろそこで国際法の果たす役割も過大評価することは禁物である。
 過去の事例を振り返ると、厳格な法の解釈適用に基づく国際裁判(仲裁を含む)の過信は得てして不運な結果を生じ、何らかの他の第三者による関与(それが、仲介や調停のような体裁だけに限らず)や、解決の時機、そのときの国際情勢、国内動向、各当事国の指導者(政策決定者を含む)などの諸要因が複雑に絡んだ様相の中で、結果が多様なものとなることが分かる。特に、国際法に基づく議論の展開は、裁判のような第三者による厳格な法解釈・適用においては、比較的効果的な理論武装ではあっても、二国間を中心とした外交交渉における解決の模索過程では、自ずから限界があるのはいうまでもない。
 日本の領土問題・海域画定問題・エネルギー資源配分問題なども、この点で、諸外国の事例に照らして判断を迫られるものと考えられ、いたずらに法の厳格な解釈・適用の枠組みだけにとらわれることなく、その他の諸要素を総合的に勘案した対応が必要となると思われる。