表題番号:2008B-268 日付:2009/02/14
研究課題「政治脳」と紛争の実証的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 教授 森川 友義
研究成果概要
過去一年間では、まず、現在隆盛しつつある「進化政治学」と政治脳とのかかわりあいについて日本語の文献が乏しいことから、進化政治学の知識をもたない政治学者に向けて論文を執筆することにした。

「進化政治学とは何か?」(『年報政治学』)と題して、進化政治学と呼ばれる分野が、1980年代前半から、どのような前提条件を用いながら発展してきたのかを解説した。近年萌芽した「進化政治学」は、その後欧米の政治学会において認知され、その手法を用いた研究も増加傾向にあるが、全体像を把握する文献は非常に少ないのが実情であり、何をどこまで明らかにする分野なのかも進化政治学者によってさまざまであるところ、本稿では「進化政治学」は進化学の政治学への適用ととらえつつ、かかる分野が誕生した経緯から現在までの理論的支柱、アプローチの可能性と現状での問題点について把握することを目的とした。政治分野のうち、特に、意思決定と利他行動、政治行動と先天性、および紛争と根源的メカニズムの3点について詳述したが、同時に、政治行動における後天的変数と先天的変数の相互関連性、至近メカニズムと根源的メカニズムの視座の必要性についても言及した。

他方、政治脳と紛争の関係について、我が国が太平洋戦争中に行った神風特攻隊(1944年~1945年)について、遺書、日記、手紙等の残された文献からコンテンツ分析を行った。かかる分析を通じて、ホモサピエンスの20数万年間の進化の歴史を通じて、自らの生命を犠牲にして集団の利益に利する行動をとることが可能であることを検証した。かかる研究はボールズらが数学的に可能であるとした論文、パペらのテロリズムの研究で導かれた仮説等を裏付ける結果となっている。2009年2月、ニューヨークで行われた国際関係学会において論文発表したのち、現在、オレゴン大学のジョン・オーベル名誉教授とともに『米国政治学会誌』に投稿すべく執筆中である。