表題番号:2008B-255 日付:2009/03/02
研究課題スポーツファンの経験価値構造に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 原田 宗彦
研究成果概要
1993年にスタートしたJリーグは、プロ化することによって企業スポーツをエンターテイメントスポーツへと発展させ、顧客を創造し、ファンの数を飛躍的に増やした。まさにスポーツ界の「ブルーオーシャン戦略」が実を結んだと言えよう。当時のスタジアムは、サッカーファンがこれまでに見たことのない華やかなで、目新しい劇場となったのである。当時のファンは、プロサッカーという新しい経験に酔い、深い感動と地域の誇りを手に入れたのである。しかしリーグがスタートして15年目を迎えた今、恐れるべきは非日常的経験の日常化であり、飽きられることの怖さである。Jリーグ開幕当初は爆発的な人気を呼び、一時的流行(ファッズ)の様相を呈していた。その後、一時的な熱狂は過ぎ去り、流行は沈静化し、ファン離れの現象が起きた。その後地域密着化とワールドカップ大会の開催によって観客数はバブル期の水準まで盛り返したものの、昨季の総入場者数は759万6056人と前年より12万1517人の減になるなど、飽和期への移行が懸念される。問題となるのは、Jリーグのスタジアム観戦者調査でも示されたような29歳以下の青少年マーケットの縮小である。2000年と2006年を比較すると、18歳以下が12.6%から7.4%へ、19-22歳が11.2%から7.1%へ、そして23-29歳が26%から16.3%に大きく落ち込むなど、このマーケットは7年間で5割から3割へと激減したのである。ここには、ファンの固定化とともに、青少年のサッカー離れという現象が潜んでいる。折しもJリーグは、現在760万人の年間総観客数を、2010年に1100万人にするというイレブン・ミリオン・プロジェクトを立ち上げたが、その鍵となるのが、何をさておいてもスタジアムへ来なければならない<理由づくり>である。別の言葉で言うと、サッカーのライブ観戦でしか得られない経験価値の提供であり、ファンに深い感動を与え、クラブと横浜に対する誇りを自覚させる、気分と精神が高揚する時間の提供である。そこで本研究は、横浜マリノスFCがファンに提供する経験価値を複数の調査によって明らかにし、今後のクラブ経営に活用できるデータを集め、分析し、形式知として現場にフィードバックすることを目的とした。そのため、今回の調査では、マリノス・ファンの経験価値という感情的課題に取り組むため、戦略的トライアンギュレーション(方法論的複眼)の視点から、以下に示すように、定性的データと定量的データを組み合わせた調査を実施する。なお得られた定性的データは、QDA(Qualitative Data Analysis)ソフトウェアによる分析を試み、定量的データはSPSSを用いて分析を行った。その結果、スポーツ観戦における経験価値尺度を開発するとともに、定量的分析の結果、経験価値の構成概念として、審美性、遊び、サービス、投資効果の4つが抽出された。また経験価値インタビューにおいては、感動から不満足まで、スポーツ観戦時に揺れ動く、細かな感情の変化が明らかになった。