表題番号:2008B-246 日付:2014/05/06
研究課題文化的施設がもたらす経験価値に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 小島 隆矢
研究成果概要
 本研究課題担当者は、公共建築施設の整備プロセスに顧客ニーズ調査、満足度調査を導入するための研究を行っており、その成果の一部は国交省営繕部の業務の一環として定着している。この取り組みは各方面より注目を集め、特に現在、いわゆる“箱物行政”批判、事業評価の実施等を背景として岐路に立たされている、博物館型施設(博物館、美術館、動物館、水族館)、劇場、図書館など-これらを文化的施設と呼ぶことにする-の評価や改善に用いることが期待されている。一方、これら施設の顧客満足に関する既発表研究(「劇場・ホールにおける顧客満足度調査に関する研究 その1~3」2006年度日本建築学会大会、「ミュージアム類型施設における来訪者満足の内容分析」2007年度日本建築学会大会)の結果によれば、文化・芸術・教育・知的創造・コミュニティ形成など多様な側面において施設が世に提供している価値を評価するためには一般的なCS調査では不十分であり、何らかのブレイクスルーが必要であると思われる。
 そこで本研究では、近年、商品企画やマーケティング実務の分野で注目を集めている「経験価値マネジメント」という概念に着目し、文化的施設の評価に取り入れることを考える。経験価値マネジメントとは、物理的機能の充足ではなく顧客が経験する感動・思い出・充実感など(=経験価値)の創出を目標とするマネジメント活動を指す。
本年度の研究課題の範囲内においては、文化的施設および経験価値に関するインタビューおよびアンケート調査を行い、評価法提案のための基礎的検討を行った。主要な研究内容・成果概要を以下に記す。
1)集客施設の再訪意向に関する調査
文化的施設・テーマパーク等を含む集客施設の再訪意向について評価グリッド法を準用したインタビュー調査および定型自由記述形式のアンケート調査を行い、「幸福感、現実を忘れる(テーマパーク等)」「ゆっくり楽しむ、身近さ(美術館、博物館等)」など施設種別に対応した経験価値のニーズを抽出した。
2)図書館利用に関する意識調査
図書館をテーマに評価グリッド法によるインタビュー調査、グループディスカッション形式のワークショップを実施し、次のような結果を得た。
・図書館に行くのが好きな層は、図書館を単なる蔵書配給装置とは見ておらず、その落ち着いた雰囲気を過ごす場所としての経験価値を感じており、それが利用意向を高めているようである。
・図書館に行くのが好きでない層は、そのような経験価値を感じていないばかりか、図書館の雰囲気が「苦手」というネガティブな経験価値を認識しており、それが利用意向を低めているようである。

 今後は、これらの成果をもとに「経験価値」概念を取り入れた定量的調査を実施し、経験価値の構造を把握するとともに施設評価に取り入れる方策を検討する計画である。