表題番号:2008B-244 日付:2009/03/21
研究課題水温の広域シミュレーションモデルを用いたハマダラカの生息域評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 太田 俊二
研究成果概要
2007年度における、マラリアを媒介するハマダラカのアジア地域での生息域判定を行うための基礎をなす水温評価モデルのブラッシュアップに引き続き、熱収支研究の充実とあわせて、判定モデルの基盤を整えることを目的の中心に置いて一年間活動してきた。水温評価モデルに関しては Journal of Agricultural Meteorology誌に受理(1)された。植物体が水たまりの上に存在する場合であっても、非常に高い精度で熱収支を再現し、日平均水温を予測できる。まったく植被のない状態の水面から植被が徐々に発達した水面までを仮定してそのときどきの温度変化や熱収支を再現可能になった。これにより、ハマダラカの生息域を大きく左右する水温情報を広域にかつ高い精度で得ることが可能となり、ハマダラカが生育する多様な地域特性を明らかにしていく基盤が出来たと言える。また、都市部の温度環境としてヒートアイランド現象も重要な側面を持つことから、所沢キャンパス周辺でデータを収集し、将来的には熱収支の解析にも用いたいと考えている。なお、この成果は2008年夏の国際生気象学会で発表し(2)、現在国際誌に投稿中である(3)。
一方で、ハマダラカの生息域を特定するための基本モデルとなる世代交代モデルの開発を試みた。昨年度の世代数の推定モデルを発展させ、ハマダラカの空間的な密度の高さを知るための個体群動態に主眼を置いた。この結果、たとえばある年の6月1日現在の分布世代数が何代いるかがわかり、より生物学的な議論が可能になる基本的な考え方を示すことが可能になった。ハマダラカの生育前期(ボーフラ)と生育後期(成虫)の生活史と気候の対応関係を含めた生理生態的なモデルとして発展しつつある。本年度の仮計算では先に説明した水温評価モデルによる水温情報やその他の気候値を入力値として活用可能であることまで確かめることが出来た。現在開発中のモデルは、一地点の計算をするために数分の時間を要するため、地理的分布を明らかにするためにはより高速な計算機が必要である。