表題番号:2008B-232 日付:2010/04/09
研究課題不登校予防のための「登校行動持続要因」の活用と効果の実践研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 菅野 純
(連携研究者) 十文字学園女子大学 専任講師 加藤 陽子
研究成果概要
本研究の目的は、不登校予防という視点に「登校行動持続要因の解明」という新しい発想を加えて、不登校になった原因ではなく不登校にならずに登校し続けた「登校行動持続要因」について臨床心理学的に分析・検討し不登校抑止への対策を探索的に探ることにある。
これまで①大学生319名から得た「不登校にならなかった理由」に関する自由記述回答をテキスト型データ解析ソフト「ワードマイナー」を用いた登校行動持続要因の検討及び②登校行動持続要因の一部である「精神的充足」「社会的能力」の検討を行ってきた。ワードマイナーによるクラスタ分析の結果、不登校持続要因には「考え方・気持ち」、「友達・友人関係」、「親・親族」、「人間一般」、「勉強・学習」、「関係」、「世間体」、「部活・大会」、「家族・家庭」、「成績・進学・受験」等があげられてきた。それらの結果から社会的ネットワークの分析を試みた結果、「親族関係」「学校内での人間関係や体験」「教育にまつわる文化」等のミクロ・マクロの社会的ネットワーク資源がそれぞれ登校持続のための要素として強く自覚されていることが示唆された。さらに、従来むしろ不登校に近い要素と考えられてきた「社会的葛藤」や「学校生活上の克服課題」などの要素にも登校行動持続要因の働きがあるなどの結果を得ている。
特定課題による本年度の研究では対象を中学生に広げ、中学生の登校行動持続要因と「精神的充足」「社会的能力」の関連の検討を行った。主に静岡県藤枝市の公立中学校に通う中学生を対象とし1年生から3年生までの横断的データおよびある学年の中学1年生から3年生までを縦断的に調査した結果得たデータを用いて分析検討をした。結果、男性の特徴として「社会的能力」よりも「精神的充足」の高さが登校行動を支えている特徴が示され,女性は「精神的充足」よりも「社会的能力」の高さが登校行動を支えているという特徴が示された。また発達的変化による中学生の登校行動持続要因の構造的な変化および登校行動持続要因の基底要因とされる「精神的充足」と「社会的能力」の得点と登校行動持続要因の保有率の関連を分析した。クラスター分析を行ったところ,項目のクラスター間移動が見られ,生徒が重視する項目が発達とともに移行することが確認された。また分散分析の結果,「精神的充足」が特定のクラスターと関連が深いことが示唆された。
本研究の成果は2008年7月、ベルリン(ドイツ)で開催された国際心理学会で発表を行い、諸外国からの研究者の注目と関心が寄せられた。また2008年10月に日本教育心理学会で発表を行った。本研究の成果を含めた不登校に関する著作を2008年8月に出版した。