表題番号:2008B-230 日付:2009/03/22
研究課題日本とベトナムにおける社会的不平等と家族形成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 店田 廣文
(連携研究者) 人間科学部 教授 臼井 恒夫
研究成果概要
2008年度に、少子高齢化に関連する2つの調査の分析を行い、対象者に結果報告を行った。祖父母と孫の交流に関する調査・高齢者の生きがいに関するアンケートの調査結果概要を、対象者全員に送付した。
 前者は、さいたま市在住の60歳以上の高齢者800人を対象に郵送調査で実施し、252人(男107名、女145名、平均年齢70.6歳)から回答を得た。親しい孫の平均人数は2.5名であり、以上のことから、孫のいる高齢者は孫の世話を積極的に引き受け、孫との交流に幸福感などを得ている一方で、半数程度のものは体力の限界や責任感などから祖父母役割にストレスを感じていることが明らかとなった。
 後者の研究では、先行研究によって得られた知見から、生きがいが対象、感情、条件、帰結の四つの側面から捉えられると仮定し、それぞれの側面について自由記述式の回答を得た結果について分析した。調査は、上述の調査と同じ高齢者を対象として行われた。回収有効票数は314(有効回収率38.9%)である。生きがいの対象について、上位5位までのキーワードと構成比(全構成要素数に占める割合)は孫(4.8%)、自分(4.7%)、健康(4.0%)、家族(3.5%)、仕事(3.0%)となった。また生きがいに伴う感情については幸せ(5.5%)自分(5.4%)健康(4.7%)満足感(2.9%)元気(2.5%)となった。少子高齢化が進んでいく中で高齢者の生きがいの解明は政策的にも大きな意味をもっている。すでに社会参加を促すことで生きがいを高めようとする政策が行われているが、社会参加を軸に据えた生きがい対策は「健康な」高齢者には有効であろう。しかし「生きがい=社会参加や有用感」としている限りいずれは生きがいを失う時が訪れるのではないだろうか。さらに、切実に生きがいを必要としているのは健康な高齢者ではない。寝たきりであったり身体が不自由であったり社会参加の難しい高齢者にこそ必要なものである。高齢社会における生きがいを捉えなおし、全ての高齢者が生きがいをもち得るよう改善策を模索する必要があると考えられる。
 一方、分担者の臼井は、少子化が加速しているベトナムに焦点をあて、主に子どもや高齢者に対するケアワークを支える社会的ネットワークの観点から考察を進めている。ケアワーク・システムは複数あり、ベトナムでは社会主義圏に特有の国家管理型、アジアに特徴的な親族ネットワーク型、さらには経済発展にともなう自由市場型などが混在し、他に福祉国家型、専業主婦型、家事使用人型、地域ネットワーク型がある。まずベトナムの家族変容を形態的にとらえるために、人口や世帯の統計データを中心に研究を進め、家族政策や社会保障・社会福祉政策を概観することを始め、来年度以降の成果を予定している。