表題番号:2008B-216 日付:2009/04/29
研究課題高密度キセノン電離箱のエネルギー分解能問題の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 長谷部 信行
研究成果概要
キセノン電離箱は、シンチレーション発光と電子・イオン対の同時観測が可能なことから、これを利用し、天文学、惑星科学、
素粒子物理学、医学的応用において革新的検出器が相次いで開発されている。近年、最も注目を集めている放射線検出器の一
つであり、その基礎物性を探求することは極めて意義深い。

キセノンを高密度化し、臨界点付近に達するとエネルギー分解能が悪化していく。一方で、一イオン対を生成するのに必要な
平均エネルギー(W値)は減少するとの報告があり、統計的にはエネルギー分解能が向上することが期待される。この矛盾は、
さらに高密度な液体キセノン検出器でも観測されているが未解明であり、エネルギー分解能問題と呼ばれている。我々は、
エネルギー分解能の悪化が、密度揺らぎによるものだと予測しており、電離電子数とシンチレーション光子数に関係性がある
と考えている。

本研究では、エネルギー分解能問題に密度揺らぎの観点からアプローチするために、1.低密度でのシンチレーション光子数
の絶対測定、2.臨界点周辺で電離電子数及びシンチレーション光子数の同時測定、を平行して行った。以下では、進捗状況
を述べる。

1:キセノンガスのシンチレーション光子数については基準とすべき値が存在しない。我々は、アルファ線源を用いて点光源
を作り、一励起子を生成するのに必要な平均エネルギー(Wex値)を34.1eVと決定した。
2:臨界点を超える、およそ1g/cm3までの高密度化が可能であり、MgF2製の窓を持ち、内部にアルファ線源が固定された一対
の平行平板電極を有するチェンバーを設計・製作した。
 
2において製作したチェンバーを用いた実験が現在進行中である。4月現在、キセノンガス純度確認のために、ドリフト速度
の測定、lifetimeの測定などの予備実験を行っている段階であり、5月中旬には実験を開始する予定である。