表題番号:2008B-183 日付:2010/11/08
研究課題筋繊維が示す反転分極構造の観察と擬似位相整合素子の可能性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 上江洲 由晃
研究成果概要
SHGは空間反転対称性の破れと時間反転対称性の破れを感度良く検出できる実験手段である。申請者は早くからSHGが強誘電体の自発分極に非常に敏感な量であり、大きなダイナミックレンジで強誘電体の秩序変数である自発分極の変化を検出でき、また臨界指数を決定する感度の高い測定であることを指摘した(例えばJ.J.Appl.Phys.28,453(1989), J.Phys.Soc.Jpn. 60,2461(1991))。またFiebigらの観察に先立って強誘電分域の2次元観察をSHG顕微鏡で行った(Appl.Phys.Lett.66,2165(1995))。さらに従来不可能とされてきた強誘電体の180°分域構造を、SHGの干渉を用いれば観測可能であることを指摘し、疑似位相整合素子(QPM)の周期性反転分極構造(PPD)の2次元観察に成功した(J.Appl.Phys.81,369(1997))。このSHG顕微鏡を用いて水面上の極性色素分子の単分子膜の会合状態を観測した(J.Chem.Phys.115,1473 (2001))。また反転分域の3次元観察を可能にする4位相干渉法を開発して、LiNbO3の電場のもとでのドメイン反転を観察した(Ferroelectrics 304,99(2004))。
本研究では、ドメインのより一般的な3次元観察を可能にするため、SHG干渉顕微鏡法に共焦点光学系を導入し、LiTaO3-QPM素子に書き込まれた周期8μmのPPDのSHG断層写真をとることに成功した。この一連の研究で、ある強誘電結晶では試料内部のドメイン構造が明確に観察されるのに対し、他の強誘電結晶あるいは同じ結晶でも異なるSHGテンソル成分を用いると内部からのSH強度が非常に微弱になり、ドメイン境界のみが強調して観測されることが明らかになってきた。この原因について、極最近、強くレーザービームを絞った場合に起こる共焦点系に特有の問題であることを突き止め、3D可視化の一般的な条件を求めた。このようなSHG干渉顕微鏡を用いた非破壊3次元観察は、まだ世界のどこでもなされていないユニークな顕微法である。
 ウサギの骨格筋から抽出した筋繊維のSHG観察を行った。筋繊維は半径約1mの筋原繊維の束であり、さらに筋原繊維は、ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントからなる基本構造(サルコメア)が軸方向に約2mの周期で並んだものである。興味深いことはサルコメアを構成するミオシンロッドが逆向きの2重らせん構造を持っていることある。この構造はサルコメアが反転極構造を形成していることを予想させる。この観察はわれわれのSHG干渉顕微鏡で初めて可能になるが、実際に観察したところ確かにMバンドを中心に分極反転構造が形成されていることを明らかにした。さらに軸方向レーザーを入射させたときに予想されるSHG強度の増幅が観察された。
 これらの成果を応用物理学会のシンポジウム(2007年3月)、および物理学会のシンポジウム(2008年3月)で発表し、またリトアニアのヴィリニウスで開催された第9回RCBJ強誘電体会議では「SHG tomography as a tool of material diagnosis」と題する45分の冒頭基調講演(2008年6月)を行った。