表題番号:2008B-153 日付:2009/04/07
研究課題参加型ネットワーク指向サイエンスカフェ空間の創出とSTS的実践
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 菱山 玲子
研究成果概要
 科学技術コミュニケーションにおける主要課題は,専門家と一般市民との間の知識の格差と視点の違いを埋め,如何にして社会的合意形成を促すかという点にある.科学技術コミュニケーションで扱う社会的合意形成は,一般に統制が難しく閉じた環境での実験評価・分析手法(従来の工学的アプローチ)を適合させることが困難なフィールドにおいて行われるが,こうした環境下においては,(実験室と異なり)統制が難しいがゆえに効果的な問題解決手法の産出が遅れている.この問題に対して,フィールドへの情報技術の導入は従来の工学的アプローチを拡張する位置づけとみなすことができる.
 そこで,本研究ではインターネット環境下で人間が参加できるフィールド指向の広域参加型シミュレーションによるサイエンスカフェの実施を試みることとした.この実施において,科学技術コミュニケーションの実問題を取り上げると共に,実践を事例として扱う社会科学の分析手法を融合しながら新たなサイエンスカフェ空間を構築し,その効果を探ることとした.
 研究の過程では,食糧問題・地球温暖化問題・GM作物問題の3つの環境領域の課題を取り上げ,ネットワークに接続された環境から利用することができる参加型シミュレーションを用いた体験型ツールを構築し,これを大学3-4年生に適用した.その結果,ローカルな意思決定が大域的な空間に影響を与える状況や,複数の意見の対立軸の存在を体感的に把握できる効果を確認でき,参加者の視点の拡大や合意形成のためのコミュニケーションを促進することに成功した.実験から,複雑な科学技術上の専門知識を得るための体験を共有することが,問題が抱える本質的な課題の把握を促すばかりではなく,合意形成における会話内容にも影響を与えることがわかった.一方で,遠隔で行うことを前提とするインターネット上でのコミュニケーション活動には音声やチャット・動画などが利用されるが,これらのコミュニケーションメディアの特性を意識した利用を行うこと,遠隔環境下でのファシリテーション手法について検討が必要であることがわかった.