表題番号:2008B-150 日付:2009/10/21
研究課題熱分解および燃焼場における多環芳香族炭化水素の生成機構を表す反応モデルの確立
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 国吉 ニルソン
研究成果概要
 金属表面を固める方法として真空浸炭が用いられており、炭素源となるのは acetylene (C2H2) や propane (C3H8)、ethylene (C2H4)、cyclohexane (C6H12) などの炭化水素分子である。真空浸炭は高効率であるため環境に優しい方法であるがすすを生成するという問題も生じる。本研究ではすすの前駆体である多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons、以降 PAH と呼ぶ)の挙動を解明するために実験および計算によって methane (CH4)、acetylene、propane および cyclohexane の熱分解過程を解析し、それぞれの条件で生成する PAH の濃度を求め、比較した。実験に小型の炉を用い、計算には文献に提唱されている化学反応モデルを組み合わせて使用した。得られた結果は以下のようである。
 1.熱を加えても methane がほとんど分解されないまま高濃度で残る。Acetylene もかなり安定であるが benzene (C6H6) などの炭素原子が多い分子が生成する。
 2.Propane および cyclohexane はほぼ完全に分解され、主な生成物は acetylene、hydrogen (H2)、benzene および methane である。
 3.熱分解による主な生成物以外に加えて、diacetylene (C4H2), vinylacetylene (C4H4), butadiene (C4H6), toluene (C7H8), phenylacetylene (C8H6), styrene (C8H8), indene (C9H8), naphthalene (C10H8), acenaphthylene (C12H8), acenaphthene (C12H10) および phenalene (C13H10) の生成は実験的に確認され、実験的に求めたこれらの炭化水素濃度は計算の結果と定性的に一致した。
 4.実験結果と計算結果との間に定性的な一致がみられたことによって採用した化学反応モデルは基本的には妥当であることがわかったが、diacetylene や styrene の濃度については差が大きかったことも明らかになった。すすの発生を抑える方法を探るためにPAH の挙動を解明する必要があるため、化学反応モデルを改良しなければならないことが判明し、今後の課題が明確になった。