表題番号:2008B-106 日付:2010/11/08
研究課題酸化物超格子薄膜を用いたナノメタ物質の創製と構造・物性評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 上江洲 由晃
研究成果概要
本研究は、新しいメタマテリアルすなわち1+1が2以上になる物質を探索しようというもので、この目的のために、リラクサーと呼ばれている複合酸化物と強誘電体酸化物との超格子薄膜を単位格子の精度、0.4 nmで制御して作成し、その構造と誘電特性を評価し、超格子特有の特異な現象を見つけたものである。
 このような人工超格子の研究はEsakiの半導体超格子の研究が有名であり、これは異なった種類の原子を結晶基板の上に原子スケールで交互に堆積させ、バンド構造を制御して自然界では得られない特異な電子状態を作り出すという考えである。私たちはこの人工超格子を酸化物、特にぺロブスカイト構造をもつ誘電薄膜を用いて新しい機能を作り出せないかを目的とした研究にチャレンジしてきた。これは、半導体や磁性体と異なって強誘電体の機能は構造と直接結びついているからで、そのために薄膜、多層膜、超格子は誘電体分野で非常に魅力的な方法となっている。
 
 成果は次のように要約される。
(1)組成比の異なる強誘電体/リラクサー超格子膜PSN/PTをPLD法により作成し、超格子周期の乱れが無く、層間に介在するインターフェイスの影響が非常に少ない薄膜の作成法を確立した。
(2)作成した超格子膜のメソスコピックな構造をX線回折法により解析し、超格子中のPSNとPTの格子定数をPT組成比の関数として決定した。PSNの格子定数は組成比にほとんど依存しないのに対し、PTの格子定数はある組成比の時大きく増加することを発見した。これはPTの配向性の変化、すなわち自発分極が面内にあるa分域状態から面に垂直方向なc分域に変わることを示している。
 (3)同じ膜について誘電応答特性を測定し、PTの格子定数が変化する組成比で超格子固有の誘電率が増大する現象を見出した。この誘電特性の挙動と構造変化を説明する可能なモデルを検討した。

これらの結果は、単位格子スケールで制御した強誘電体/リラクサー超格子膜の作成法を確立したこと、作成した超格子がインターフェイスの影響のない良質な膜であること、また超格子がバルク結晶や単層膜とは異なる物性を示すことを明確に示した点で、今後の誘電体薄膜物理に重要な指針を与える研究である。
 結果の主なものは、Appl.Phys.Lett.およびJ.Appl.Phys.に掲載されている。