表題番号:2008B-067 日付:2009/03/11
研究課題メダカポリコーム遺伝子群による左右軸決定のエピジェネティック制御
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 東中川 徹
研究成果概要
発生とは、細胞がゲノムの塩基配列を変えずに種々の細胞系譜に分化していくエピジェネティックなプロセスであり、
細胞分裂を超えてのエピジェネティック・マークの維持は「細胞メモリー」あるいは「エピジェネティック・メモリー」と呼ばれている。我々は、このプロセスに機能すると考えられているPolycomb遺伝子群(PcG)の作用機序を明らかにすることを目的として来た。
本年度の成果として、メダカのPcG遺伝子のひとつoleedが左右軸の決定に関与することを見出した。モルフォリノ・アンチセンス・オリゴによるoleedの機能減少型の阻害胚を作出し観察すると、以前認められた単眼奇形に加えて心臓の回転方向や肝臓、胆のうの位置の逆転を見いだした。観察された臓器についてこれらの逆転が同時に起こることが認められることから「全逆位」(situs inversus)と判断される。左右特異的遺伝子の発現パターンの乱れに加えて、Kupffer胞の繊毛の存在状態に以上を認めた。Kupffer胞の繊毛は、発生初期の回転運動により左方向の水流を生み出し、これが二次的に左特異的遺伝子の発現を誘導することが、マウスやゼブラフィッシュにおいて明らかにされている。本実験における阻害胚の繊毛は、存在するもののKupffer胞の上皮内に埋め込まれていたり、十分に体腔内に突出することなく水流形成に十分機能しないことが窺われた。 このことから、メダカにおいて、oleedはKupffer胞における繊毛形成の異常を介して左右軸の決定を支配していることが推察された。
正しい左右軸の決定は、脊椎動物における臓器の正常な機能にとり必須であり、たとえば、ヒトにおける左右軸の異常はKartagener症候群に見られるような病変へと至る。本研究は、これらの疾病の病因解析の端緒を開くとともに、学術的には遺伝的に決定されていると考えられていた左右軸の決定にエピジェネティックな制御が加わることを明らかにするものである。