表題番号:2008B-050 日付:2009/04/06
研究課題クロマチン工学の開拓
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 大山 隆
研究成果概要
 現在、組換えDNA技術を基盤とした遺伝子操作技術は、生命科学の諸分野に欠くことのできない基礎技術となっている。しかし、真核生物の遺伝子発現を思い通りに制御する技術はまだなく、生命科学における大きな技術的課題となっている。遺伝子発現制御の主要な段階は転写であるが、真核生物では転写はクロマチン内で行われるため、転写制御領域に転写開始に適したクロマチン構造が構築されるかどうかが遺伝子発現を左右する鍵となる。そこで本研究では、クロマチン工学を「遺伝子発現に有利なクロマチン構造を人為的に構築する新しい遺伝子機能制御技術」と定義して、その開拓に先鞭をつけることを目的とした。
 我々は、負の超らせんを擬態した180塩基対の合成ベントDNA(T20)をクロマチン構造の“モデュレーター”として用いることで、HeLa細胞やCOS-7細胞中でレポーター遺伝子の発現を安定的に昂進できることを既に見出していた。そこで今回、T20の機能が細胞分化の影響を受けるかどうかについて詳細に検討することにした。まず、プロモーターの上流にT20をもつレポーターをマウスES細胞のゲノムに1コピーだけ導入して10株の細胞株を樹立した。次いでこれらからT20のみを欠失させて同数の対照株を樹立した。各細胞を肝細胞に分化させてT20の効果を調べたところ、未分化状態の細胞内でも、分化後の細胞内でも、T20がプロモーターを活性化している場合が多いことが分かった。現在、細胞分化に伴って構造が変化したクロマチン領域と構造的に不変であったクロマチン領域を明らかにする解析を始めている。この他、一過的遺伝子発現系において転写を活性化できるZ型DNAを作製することができた。以上のように、単年度の研究ながら、多くの研究成果が得られた。