表題番号:2008B-034 日付:2009/04/22
研究課題ワーキングメモリにおけるリソース配分の最適化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 西本 武彦
研究成果概要
バドリー(Baddeley, A.)が提唱するワーキングメモリ(以下WM)モデルにおける視空間スケッチパッド(以下VSSP)の性質に関しては近年のその研究が進み,対象の形態に関する情報と位置に関する情報とは独立に保持・操作されるという見解が有力である.これを前提にして形態および位置情報はどのように分離・統合されるのかという問題,すなわちVSSP内の下位要素間の機能協調の解明が次の課題である.
フィンケ(Finke et al., 2005)は,呈示刺激に関する形態情報と位置情報のいずれか一方または両方を記憶させる再認課題を実施し,再認成績が形態情報と位置情報で異なることを示した.この結果はVSSP内での記憶リソースの競合および,配分の優先度という観点で解釈されている.しかし彼らの研究においては,①測定しているのが視覚的短期記憶ではなく感覚記憶であること,②リソースがVSSP内で完結したものなのか,上位システムである中央実行系から傾斜配分されるものなのかが明らかにされていない.そこで本研究では,VSSP内のサブコンポーネントにおけるリソース配分の方略と中央実行系の役割に焦点を当て,形態情報と位置情報の処理と記憶成績の関係を検討した.                           
 実験計画は基本的にフィンケらに倣った.リーディングスパン・テスト得点を測度とするリソース変数の導入,乱数列生成を課すことで視覚刺激の言語的符号化を抑制し,かつ中央実行系に負荷をかけた点が異なっている.結果,負荷がかかった状態では位置情報を犠牲にして,形態情報の保持が優先される傾向が認められた.しかし,これがVSSP内でのリソース傾斜再配のためなのか,あるいはVSSP内の形態・位置それぞれの下位要素の容量差によるのかについては明確な結論を下すに至らなかった.この点を明らかにすべく現在引き続き実験データを収集している.