表題番号:2008B-032 日付:2009/03/24
研究課題19世紀後半から20世紀前半のロシアにおける文学生産の場と視覚・聴覚メディア
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 貝澤 哉
研究成果概要
 本研究では、おもに19世紀末から20世紀初頭のロシア・ソヴィエトにおける文学生産の場の変化と視覚・聴覚メディアとの関係を多角的に捉えることを目的とし、具体的につぎのような三つの目標を設定した。
 ①視聴覚メディア史、視聴覚メディア理論に関する資料収集とその読解、整理
 ②当該時期のロシア・ソヴィエトに関する視聴覚メディアに関する資料、文学とメディアの関係に関する研究等の資料収集と読解
 ③ロシア・ソヴィエトの文学・文化史的コンテクストのなかで視聴覚メディアが果たした役割の研究
 このうち、①に関しては、ジョナサン・クレーリー、ジョナサン・スターン、吉見俊哉などの研究が、ロシア研究においても参考になる重要な研究であることを確認し、また最近のロシアで出ているこうしたテーマの研究を大量に入手することができた。またロシアで流行したデンマークの美学者クリスチアンゼンの当時のロシア語訳をモスクワで探索し入手することができた。
 ②については、当該時期のロシアの美学、心理学、生理学、知覚理論に関する基本的文献の探索をおこない、当時の心理学・知覚理論が、文芸理論に大きな影響を与えていることを確認した。なかでもロシア・フォルマリズムに関するスヴェトリコワの研究はきわめて重要であり、いわゆる「心理学主義」が当時の文化・思想に与えた影響の大きさを再認識させられた。また当時の反心理学的な美学者ワシーリイ・セゼマンについて集中的に資料収集をおこない、モスクワやプラハ、ベルリンから、入手困難な資料を収集することができた。セゼマンについては、ロシア・フォルマリズム研究会(埼玉大、野中進主催)で報告を行った。
 ③については、上記①②で収集した資料をもとに、ワシーリイ・セゼマンの研究報告(論文集に収録予定)をおこなったほか、今年度の演劇博物館紀要に論文「スターリン期ソ連文化におけるジェンダー表象――映画、美術における女性イメージ」と題して、ソ連初期文化のメディア横断的な特徴の一端をジェンダー表象の観点から素描した。また東京国立近代美術館フィルムセンターで、3月21日にギャラリートーク「ソヴィエト初期の映画ポスター:スタイルの変遷と文化史的コンテクスト」を行った。