表題番号:2008B-031 日付:2009/03/21
研究課題歴代地方志による中国歳時習俗地図の作成のための基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 稲畑 耕一郎
研究成果概要
当初は数年計画で歴代の地方志の習俗記事を地域別・項目別に調査し、それを時代に従って地図化しようと計画していたが、単年度の実施となったため、これを大幅に縮小せざるを得なくなった。
今年度においては、まず前年度までの調査で得た釈迦の誕生日とされる旧暦の四月八日(灌仏会、降誕会、仏生会)の行事のデータに基づいて、その習俗の分布の状況とこれを記述する地方志の問題点を指摘し、「歴代地方志中習俗記載的利用価値及其問題―以仏誕節習俗為例」としてまとめた中国語の論文を、中国全国高等院校古籍整理研究工作委員会の機関誌『中国典籍与文化』に投稿し(査読あり)、2008年9月刊の第3期に掲載できた。
そこでは、歴代の地方志の習俗の記述が、全国レベルで歴代にわたって圧倒的な量をもって残されていることから、総体としては貴重な民間の習俗の状況を伝えるデータとなりうるものの、個別にはその記述の信頼性を注意して扱わなければならないことを、具体的な事例を挙げながら指摘した。また、民間の習俗というものは、ある一地方に根ざした特有のもの、固有のものと考えられがちであるが、中国での分布を考えた場合、習俗の小異を別にすれば、日本の国土を遙かに超えるほどの大きな広がりをもつものであることを指摘した。民間の基層文化である習俗における「地域」という概念をどのようにとらえるのがよいのかを考えるきっかけとなり、次に進む手がかりを得た。
文献調査の方面では、北京に出張し、中国国家図書館や北京大学図書館で関係資料の収集を行うとともに、周密『武林旧事』を手がかりに南宋の都臨安(浙江杭州)における年末から新年の習俗について考察を加えた。またこれに付随して、清初にその浙江の地から長崎にやってきた張斐という文人の残した資料を調査する機会があり、その問答集である「筆語」(写本)から江戸期の学者の中国の習俗に対する関心の強かったことが理解できた。
本課題が他のテーマの研究へ発展する糸口ともなったことになる。この関連の資料についてはすでにその大方を収集しており、その成果については改めて報告する予定である。