表題番号:2008B-019 日付:2009/04/03
研究課題モダニズムと異化作用――20世紀の文学・芸術における主体概念の解体と再構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 谷 昌親
研究成果概要
 2008年度、最も力を入れておこなった研究は、アントナン・アルトーのメキシコ体験についてのものである。これは、以前におこなった、アルトーとバリ島のダンスの関係についての研究を受け継ぐものであり、まさに本研究課題の主眼である「主体概念の解体と再構築」につながる。アルトーは、バリ島のダンスがそうであったように、メキシコのインディオたちの伝統文化、とりわけサボテン科に属し、幻覚作用を有するぺヨトルを吸引してのダンスに深い衝撃を受け、「詩の神秘」へと到達したのである。それは、西欧の合理的思考にとってはまさにすさまじいまでの「異化作用」であったはずだ。そうした「異化作用」の体験が、アルトーに同時代のモダニズムよりさらに先を行く作品を書かせたのである。
 こうしたアルトーについての研究は論文にまとめたが、それと並行して、ほぼ同時代の詩人ロジェ・ジルベール=ルコントについての研究にも着手した。ジルベール=ルコントも、ときには阿片の力を借りつつ、理性的な主体に揺さぶりをかけ、独特の作品を書いた。そのジルベール=ルコントについては著作を準備中で、来年には刊行の予定である。
 そのほか、シュルレアリスムと写真や映画の関係については以前からの研究を継続している。それはまた、写真や映画といった複製芸術が既成の芸術にもたらした「異化作用」の研究にもなっていく。また、映画に関しては、戦後の新たなモダニズムともいえるヌーヴェル・ヴァーグについての研究も続けている。ヌーヴェル・ヴァーグの映画も、それまでの映画に較べると、ストーリー性が希薄である点など、まさに整合的な映画のあり方とは異質であり、文字通り観客に対して「異化作用」として働いた。それが映画における真のモダニズムをもたらしたと言ってもいい。このヌーヴェル・ヴァーグについても著作を準備中である。