表題番号:2008B-002 日付:2012/05/09
研究課題在中国多国籍企業における海外派遣者のキャリアと能力開発に関する比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 白木 三秀
研究成果概要
親会社から海外オペレーションを預かる海外派遣者には一般的に、子会社の統制、本社との調整、本社からの技術・経営ノウハウの移転、それに、本人ならびに後継者の育成というミッションが与えられている。もちろん、これらのミッションのうちの重点の置き所は、派遣者の職位・職種、子会社の位置づけ・発展段階などにより異なる。しかも、親会社、パートナー、現地社会、競合他社などの日常的な影響力の下で、それらを適切に調整しながら意思決定を行っている。これだけの複雑かつ過重な負担の中で適切な意思決定ができる人材とは、強靭な精神力と体力を持つベスト・アンド・ブライテスト以外に考えられない。
 海外派遣を一層難しくしている点は、既述のようにして与えられたミッションが本社から見て達成されることが最も重要であることはいうまでもないが、同時に当該派遣者が現地スタッフに十分、受け入れられているかどうかという点も現地法人の業績向上の重要な要素となるという点である。つまり、本社からのミッション達成はいうまでもないが、同時に現地スタッフの動機付けにプラスになる人材かどうかが、本人の成果向上、ひいては全体としての現地法人の業績向上に密接不可分となっている。
 そこで、フィールド調査として中国人の部下から日本人上司がどのように評価されているかという点をアンケート調査により検討した。具体的には、在中国日系企業に働くホワイトカラーを対象に、彼らが自分の直属上司(中国人上司と日本人上司)に対し、業務遂行能力(評価項目1~6)、部下育成能力(評価項目7~17)、問題対応能力(評価項目18~19)、コミュニケーション(情報伝達)能力(評価項目20~22)、対人関係能力(評価項目23~28)、異文化対応能力(日本人上司のみを対象とする評価項目29~30)、そして中国人部下と上司との関係(評価項目31~34)の7つのカテゴリーごとにどのような評価をしているのかについて2008年9月、15社(うち製造業14社)、180名(有効回答ベース)にアンケート調査を実施した。
 中国人部下からの直属上司への評価(各評価項目について部下が上司を5段階評価した)に関する国籍別差異をt‐検定により比較分析した。その結果、「仕事の効率が高い」「現場の状況を客観的に会社に伝えてくれる」「会社の経営についてよく話してくれる」「上司の指示に納得して行動している」という4つの項目(いずれも統計的に有意でない)以外、全体的な傾向として、中国人上司の方がより高い評価を得ていることが明らかとなった。
 具体的には、業務遂行能力のカテゴリーにおいては各項目とも有意差が見られなかったが、その中で「仕事において、説明が分かりやすく納得性がある」という項目における日本人上司の評価が他の項目と比べてきわめて低く、これは、語学力不足を超えて、日本人上司の指示の仕方や態度が関係しているかもしれない。