表題番号:2008A-918 日付:2013/05/07
研究課題農作物被害発生地における野生動物と人間の共存に関する研究ー日本とアフリカの比較ー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 平山郁夫記念ボランティアセンター 助教 岩井 雪乃
研究成果概要
 「野生動物と人間の共存」は、環境保全が叫ばれる一方で開発が進む21世紀において、ますます難しい課題となっている。筆者が調査をつづけてきた東アフリカ・タンザニア連合共和国のセレンゲティ国立公園では、近年、アフリカゾウによる農作物被害が深刻な問題となっている。これは、タンザニアのみならず、ケニアやナミビア、南アフリカなど、アフリカの多くの地域で起こっている課題である。また、日本にも同じ問題があり、サル・シカ・イノシシなどの野生動物による農作物被害額は、年間196億円(2006年度)にのぼり、年々増加している。この背景には、保護政策の推進、狩猟の衰退、農作業形態の変化、都市志向など、日本とアフリカで共通する要因がある。また、被害の認識や対応に関しても、両地域ごとの固有性とともに共通する側面がある。
 本研究では、獣害問題が発生する要因を、歴史的な社会・経済構造の変化から分析する。そして、これを「被害」と認識するか、あるいは許容できるか、という被害認識の構造を、地域の文化や自然とのかかわり方から明らかにすることを目的とした。また、これを日本とアフリカで比較することにより、人間と野生動物のかかわりの普遍性と固有性を抽出し、地域住民を中心とした獣害対策と共存のためのモデルを構築することを試みた。
 調査は、①タンザニア、セレンゲティ国立公園に隣接するロバンダ村、②山梨県富士吉田市の2ヶ所でフィールドワークを実施した。
 セレンゲティにおいては、アフリカゾウ被害に関する基礎的情報収集に加えて、近年増加している観光ホテルでの聞き取りを実施し、地元の村人の効用率や、経営への関わり方に関してデータを収集した。また、現在の狩猟の実態を明らかにするために、数少なくなっている狩猟者と行動を共にして、狩猟行動を観察した。ここからは、①村人の観光業への参入が進んでいることから、相対的に農業の比重が下がっており、ゾウ被害対策を主体的に実施するインセンティブが弱まっていること、②観光業から敵視されている狩猟活動は、小規模ながら継続されており、多くの村人が許容していることが明らかになった。
 富士吉田市においては、NGO「獣害対策支援センター」(以下センターと略す)に協力のもとで、センター職員および地域住民に聞き取り調査を行った。センターは、住宅地や畑地に出没するニホンザルをモンキードッグを使って追い払い、誘引物となる柿を除去する活動を実施している。ここからは、センター職員の努力にもかかわらず、住民による主体的な防除活動への参加は限定的であることが明らかになった。
 どちらの地域も、組織的な被害対策に住民は積極的に関わっておらず、行政に依存する姿勢が見られた。これは、住民の内在的な問題というよりも、社会・経済的に形成されてきた住民と動物の関係に原因があると考えられる。行政や自然保護団体からの関与や、農業の経済的な位置づけや社会構造の変化に関して、より調査する必要がある。