表題番号:2008A-853 日付:2009/02/25
研究課題繊維強化プラスチックの長期寸法安定性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 荒尾 与史彦
研究成果概要
本年度は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製ミラーを開発することを目標とし,CFRP積層板の形状変化に関する調査を行った.CFRPミラーはその軽量性と耐熱変形性から衛星搭載の望遠鏡の主鏡として採用されることが期待されており,従来のガラスやベリリウムからCFRPに置き換えることで性能のブレークスルーが可能とされている.ミラーやアンテナなどの構造体は超精密性が要求されており,1ミクロンの変形も許容できない.CFRPミラーを実用化するためには,形状変化を引き起こす原因を解明する必要がある.
そこで,5ミクロンの精度で板の形状を測定できるシステムを構築し,CFRP積層板の吸湿に伴う変形のモニタリングを行った.従来の考えでは,中央面に対称に積層されたCFRP積層板は吸湿や熱変化で単純な膨張や収縮が生じるのみで,形状変化は引き起こされないとされていた.しかしながら,本実験より,CFRP積層板は繊維の分布が存在し,場所によって膨張率が異なるため形状変化を引き起こすことが分かった.さらに繊維配向の不整などの工業上不可避のバラツキにより積層板の形状が崩れることが分かった.
さらに以上の結果を踏まえ,板の変形を許容しない,背面構造の提案を行った.CFRPミラーは主にハニカムコアと呼ばれる軽量なコア材をCFRP積層板で挟みこむ構造となっている.そこでハニカムコアをモデル化し,さらにCFRP積層板も前述した実験をもとにモデル化を行い,有限要素法により熱変形解析を行った.解析結果より,1mクラスの主鏡であれば,従来の鏡の設計,すなわちミラー口径と高さの比6:1の設計により,衛星の周回軌道状での温度変化50℃で変形をミクロン以下に抑えることが可能であることが予測された.