表題番号:2008A-817 日付:2009/02/25
研究課題イメージと〈場所〉-芸術の時空間をめぐる美学的基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 小林 信之
研究成果概要
「イメージと〈場所〉」というテーマに関して、本年度はとくに「場所」としての環境と、「イメージ」としての生態学的デザインとの関係という観点に絞って美学的研究をおこなった。
 従来の狭義のデザイン概念は、物の設計や建造物の設計など、物象化された客体的側面のデザインに限定されてきた。しかしながら場所的環境はさまざまな次元で複合的に分節化されており、それぞれの次元に呼応した細やかな企図が求められると同時に、たえず全体的な「場所」の布置が視野に収められねばならない。この意味で空間的・場所的企画(デザイン)という大きな構造をまず設定し、そのうえで個別的な設計がなされる必要がある。これは同時に、現在までの個別科学的な学問分野にもとづく蛸壺的な近代的構想とディスクールでは不可能なデザイン概念であり、認識論ないし存在論におけるラディカルな発想転換を要求すると同時に、学際的・横断的設計を前提とするものである。
 さらに、以上のように規定されるデザインを社会内におけるあり方として見た場合、デザインとは、「作られるもの」と「そのものにかかわる側(使用者・消費者)」との間に介在し、構成していくひとつの感性的技術である、と定義できるのではなかろうか。そこにはすでに作られたものが既成の場所環境として規制的に働くと同時に、ユーザーや消費者の側も、個別の利用状況に応じて固有の仕方で既存のものを作り変えていく。このようにデザインとはそれ自体、モノとヒトとのあいだの文化的〈場所〉として成立しており、けっして固定的な形成作業に限定されるものではない。
 こうした観点から従来のデザイン(製品・企図・環境構築)を見直してみるとき、デザインの生態学的・環境指向的方向において、感性レベルでの新たなデザインの創出を考えることができよう。それはつまり場所的感性に依拠したデザイン論であり、製品など客体的・物理的レベルでのデザインにとどまらず、いわば象徴的・表象的レベルにおいて、場所構築の一領域としてデザインを考えていくということである。本年度の研究では、その具体的なあり方までふくめ、研究を進展させることができた。