表題番号:2008A-816 日付:2009/03/18
研究課題コミュニケーションにおける身体、そのメディアとしての機能と管理技法に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 草柳 千早
研究成果概要
 本研究は、社会学における既存の社会的相互作用論に対して、身体をより積極的に組み込んだ理論を構築するという目的の一環として、相互作用における身体の管理技法について、既存理論・研究を検討することを狙いとした。
 研究計画では(1)既存研究の検討、(2)質的・経験的な研究のためのフレイム構築を目指していたが、本年度は時間の関係上、既存文献・理論研究が中心となった。そこでの狙いと明らかになったことは3点にまとめられる。
(1)社会学における身体の扱いについて、その学史の把握。社会学において身体は近年まで積極的に扱われてこなかったが、同時に暗黙の前提とされていた。この二重性は社会学の成立過程に遡ることができる。初期の社会学は同時代の産業資本主義社会に関心を向け、社会秩序、社会変動等の理論に取り組んだ。その際身体は、自然のもの、前-社会的なものとして社会学的分析の外部に置かれることとなった。身体への関心が本格的に高まったのは1990年代に入ってからである。この背景には、一般社会における身体への関心の高まりがある。
(2)身体へのアプローチの理論的系譜の把握と整理。二つの代表的かつ対照的な流れを整理することができる。生物学的アプローチと構築主義的アプローチである。前者は身体を自然、生物学的現象として捉え、後者は社会的に構築されたもの、極端には言語などに還元する。いずれも還元主義的になりがちであり、いずれでもなくかつ両者を組み込んだ第三の視座が必要とされている。特に構築主義と身体との関係を整理することは重要であると考えられる。本研究はその点に重点を置きながら第三の道を選択、探究することになる。
(3)社会的相互作用における身体の理論化、その可能性の探究。ゴフマンの相互作用論の検討を中心に、身体をいかに理論的に扱いうるかを探究した。従来の相互作用論において、身体は、それが扱われる場合でもシンボルもしくはシンボル媒介的なものとして捉えられてきたと言える。ゴフマン理論も主にそのように捉えられてきた。しかしながら、それだけでは身体の物質的、自然的なものとしてのあり方を充分に組み込めているとは言い難い。
本研究は、シンボルとしてのみならず、物質、自然、生命としての身体を組み込んだ理論の構築を目指す。このことを今後の課題として本研究をさらに継続していく。