表題番号:2008A-813 日付:2009/02/12
研究課題刑法上の行為概念に関する比較法的研究ードイツにおける議論を中心にー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助手 仲道 祐樹
研究成果概要
 本研究課題においては、①ドイツにおける行為論の議論を検討することを通じて、因果関係の起点および犯罪要素の同時存在の基点となる問責対象行為の特定基準構築の手がかりを得ること、②ドイツの行為論の現状を整理・概観し、わが国に紹介することを目的として、研究を行った。
 研究課題の前半においては、①の研究を中心とし、その成果を「複数行為による結果惹起における問責対象行為の特定」としてまとめ、早稲田法学会誌59巻2号に投稿した。査読の結果、掲載が認められたため、2009年3月に公刊される予定である。同論文では、近時のわが国の判例に現れた「複数行為による結果惹起」の事案を素材とし、行為論に関して議論の蓄積の大きいドイツ法を比較法の対象として分析を進めた。その際、分析軸として設定したのは、人間が、行為の意味をいかにして把握するかという観点、および、行為の意味の把握方法には、行為者の主観に照準を合わせるアプローチと、行為が外界に及ぼした作用に照準を合わせるアプローチが存在するという観点である。以上の観点を用い、また、刑法の目的は法益を保護することにあり、法益侵害を回避のために刑法は行為規範を発して人の意思に働きかけるというメカニズムを有しているとの基本的認識の下に、複数行為による結果惹起における問責対象行為の特定基準を検討した結果、行為の意味の把握については、行為者主観アプローチが妥当であり、その内容としては、行為規範に違反する意思、すなわち法益侵害を志向する行為意思が重要ということになり、その個数・範囲で問責対象行為が特定されることになるとの結論を得た。
 研究課題の後半においては、目的を②にシフトして研究を行った。とりわけ、刑法上の行為を「保障人的地位における回避可能な不回避」と定義する消極的行為概念をわが国に紹介する作業を通じて、行為と回避可能性の関係の研究を進めている。その成果は、2009年中に論文として公表する予定である。