表題番号:2008A-607 日付:2011/11/14
研究課題不斉触媒と反応媒体の機能を兼ね備えた多機能分子の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 柴田 高範
研究成果概要
「環境にやさしい化学 (Green Chemistry)」の達成が求められる今日、従来のように効率的に目的化合物を合成するだけでなく、反応、後処理、精製の全ての過程を通して環境負荷を低減させたシステムの構築が求められている。その対策として、(1) 等量反応から触媒反応へ、(2) 副生成物が少ない反応系の開発、(3) 回収再利用可能な反応媒体(溶媒)の利用、などが挙げられる。本研究では、遷移金属”触媒”を用いる反応において、”副生成物の低減化”を実現するC-H結合活性化反応、ならびに”反応媒体と不斉触媒を兼ね備えた”機能性分子の創製を目指した。
 C-H結合の活性化を伴う直接的な変換反応は、従来の官能基を起点とする反応と異なり、反応点への官能基の導入が不要でありことから反応工程数を減ずることができ、さらには反応の進行に伴って生成する官能基に由来した副生成物も低減できる。報告者は、カチオン性イリジウム錯体に注目し、アリールケトンのカルボニル基への配位により、そのオルトのsp2C–H結合活性化を起点する種々の触媒反応を開発した。すなわち、アリールケトンのアルケニル化、さらには引き続く環化反応によりベンゾフルベンの合成を達成した。また、分子内に求核付加を受ける別のカルボニル基を導入することで、分子内環化反応が進行し、4-置換ベンゾヘテロールの合成を達成し、またアミドに隣接したsp3C–H結合のアルケニル化も達成した。
 一方、反応媒体に不斉触媒能を付与する試みとして、報告者が開発したイリジウム触媒によるエン型反応において、イリジウム錯体の対アニオンとして天然物由来の安価な不斉源を検討した。すなわち、反応媒体としてイオン性液体への展開を視野に入れ、種々のアミノ酸塩を検討したが、反応は進行するものの、不斉誘起されなかった。