表題番号:2008A-604 日付:2010/04/08
研究課題地球温暖化が放牧草地における温室効果ガス収支に与える影響―フィールドにおける昇温操作実験を基礎として―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 小泉 博
研究成果概要
IPCCの報告書によると、CO2濃度の上昇に伴う地球温暖化により、過去100年で地球の平均気温は0.74℃上昇し、今後100年でさらに1.1~6.4℃の気温上昇が予測されている。温暖化の影響を調査するために、様々な生態系で温暖化操作実験が行われてきた。しかし、温暖化が草原生態系の炭素収支にどのようにして影響を及ぼすのかを研究している例は未だ十分とは言えない状況にある。そこで本研究では、昇温により炭素収支を評価する指標である生態系純生産量(NEP)がどのように変化するのかと、それにどのような要因が関わっているかを調査することを目的とした。
岐阜県の乗鞍岳にある冷温帯シバ草原において、赤外線ヒーターを用いて野外温暖化操作実験を実施し、地下2cmの地温を2℃上昇させた。1.2m×0.8mのシバを10区画設置し、その半分について5月から12月にかけて昇温を行った。NEPの測定を密閉法で行い、それに影響を与えうる要因として、生態系呼吸量(Re)、 光合成量(GPP)、シバの地上部現存量(AGB)、栄養塩類としてアンモニア態窒素と硝酸態窒素の2項目、微生物現存量を測定した。
その結果、NEPは昇温により増加する事が確認された。Re、GPP、AGB、アンモニア態窒素、硝酸態窒素は実験期間を通じて昇温した区画で増加し、微生物現存量は昇温した区画で減少する傾向が見られた。また、Reと温度、GPPと温度の間には正の相関が見られた。NEPが増加したのは、GPPの増加量がReの増加量よりも大きかったためである。GPPの増加は植物体が増えたことによるものと考えられ、これは豊富な栄養塩類と温度上昇に伴う光合成速度の増加による影響と考えられる。また、栄養塩類が増加したのは、昇温により微生物の代謝が向上し、窒素無機化速度が速まったためと考えられる。以上のことから、冷温帯シバ草原において温暖化が生じると、窒素無機化速度の増加や光合成速度の増加により植物体の成長が促進され、NEPが増加することが示唆された。