表題番号:2008A-504 日付:2011/05/23
研究課題フランコ独裁政権下におけるスペイン民俗文化と民俗学・人類学との関係性に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 竹中 宏子
研究成果概要
 本研究は、フランコ独裁政権時代(1939~1975年)における文化政策の把握と地方における実際の民俗文化の扱われ方を通して、スペインの民俗文化と民族学や人類学との関係性を明らかにすることを目的としている。そこでは地方文化の形成過程が考察されるが、地域文化を主たる研究対象とする民俗学や人類学の影響力、つまり政治性に着目しながら検討する。また、スペイン全体としての民俗学や人類学を把握しようと試みるが、報告者の主要なフィールドであるガリシアにおける動向を中心に研究は進められる。
研究は文献資料の収集と読み込みを基本とし、研究機関における聞き取り調査も行った。そこから次の3点が明らかになった。
 第一に、スペインの民俗文化研究に関する学問分野の位置づけを行うことができた。スペインにおいて民俗学は、19世紀に登場し、1970年代まではその存在がみとめられるが、現在は学として存在していない。民俗文化を扱う学問領域は、人類学である。スペインの人類学史を追っていくと、国内の民俗文化を扱う分野が民俗学から民族学へ、そして人類学に名称と方法論を変えていった経緯が把握できた。
 第二に、フランコ政権下における民俗文化研究の政治性が明らかになった。独裁政権下において各地の民俗文化研究所は政府の厳しい管理下におかれ、地域主義的な思想をもつことが許されず、民俗文化研究は方法論も検討されることなく収集されていった。ある意味で政治性を抜き取られた民俗文化として、しかしスペインまたはマドリッドを中心とする民俗文化として、歌や踊りが人びとの前で披露されていたのである。
 第三に、地方(ガリシア)の視点から、具体的な民俗文化の研究状況を把握することができた。既述の民俗文化とそれに関する学的状況は当然、ガリシア地方における民俗文化のあり方にも影響を及ぼした。ガリシアにおいては、ガリシア民俗に関する研究機関(Museo do Pobo Galego)は、フランコ政権終焉後の1976年を待たねばならなかった。そして、現在につながる地方主義の動きと結びついたのは、フランコ政権以前に展開されたガリシア主義運動で「選択」された民俗文化だったのである。
 このように本研究では、スペイン全体と地方の視点、すなわちマクロとミクロな視点の両方から、地方の民俗文化およびそれに関する研究の状況と、そこに潜む政治性が捉えられている。さらに歴史を遡り、より歴史的な視点から民俗文化のあり方とその研究の変化についての考察を行うことが今後の課題である。