表題番号:2008A-121 日付:2013/04/11
研究課題ベータ崩壊および原子核質量の理論的研究と核分裂および r 過程元素合成への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 橘 孝博
研究成果概要
 天体における元素合成には、α過程、p過程、s過程、r過程などさまざま合成過程が考え
られているが、本研究ではその中でr過程元素合成を対象として扱い、特にr過程元素合成に
おいて核分裂がどのように影響を与えているかを考察した。このr過程元素合成の研究は、
これまで様々な研究者により行われているが、どこでどのように発生している過程かなど、
その全様が完全に解明されている訳ではない。
 核分裂はr過程がどのように終わるかを規定する現象であり、r過程で合成される元素の種類
や生成量に大きな影響を与える。本研究では環境中に存在する中性子吸収による核分裂や自発核
分裂ではなく、ベータ崩壊後に発生する遅発核分裂を扱う。また、遅発中性子放出確率の計算も
行った。
 研究では統計的手法を用いることとし、まず、現象論的な方法で原子核の励起状態密度を求めた。
Gillbert と Cameron がまとめた原子核励起状態密度に Ignatyk が導入した原子核殻エネルギーの
効果を考慮した。 この励起状態密度の式の中にでてくる、殻エネルギーおよびペアリングエネルギー
には、われわれが開発した原子核質量公式であるKTUY公式を用いた。さらに、原子核の変形
レベルと振動レベルを考慮するファクターを掛けて公式を精密化した。原子核変形のパラメータも
KTUY質量公式で推定されたものを使っている。このようにして求めた励起状態密度を用いて、
遅発中性子崩壊のレベル幅と遅発核分裂のレベル幅を計算した。ガンマ崩壊の崩壊幅も必要だが、
それに対しては、Malecky 達の現象論的公式を用いた。
 ベータ崩壊にはわれわれが長年研究を続けている、大局的理論を使った。この理論で推定した
強度関数に崩壊幅の割合を掛けて、遅発中性子放出確率Pnと遅発核分裂確率Pfを計算することができる。
この方法で、数百核種のPn と Pf を計算した。これらの値と大局的理論から求めたベータ崩壊半減期
で、r過程元素合成のネットワーク計算を行った。今回の計算では遅発核分裂の影響は、期待していた
ほど大きくはないことが分かったが、KTUY原子核質量公式核で推定された分裂障壁エネルギーの大きさや、
Malecky 達の現象論的公式を他の方法に置き換えるなどの研究をさらに続ける。今回の成果の
一部は2008年9月にポーランドで開催されたENAM08(The 4th international Conference on Exotic
Nuclei and Atomic Masses )と2008年12月に日本原子力開発研究構で開催された核データ研究会で発表した。