表題番号:2008A-093 日付:2009/11/11
研究課題複数肢協調運動を用いた「リラックス」の神経機構の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 彼末 一之
(連携研究者) スポーツ科学学術院 助手 坂本将基
研究成果概要
スポーツのいろいろな動作を行う際に「リラックスしろ」,「むだな力を抜け」といったことがよく言われる.実際,一流選手の動きは無駄な力が入らずに非常にスムースな印象を受ける.しかし初心者にとって力を抜くことは容易ではなし.これが難しい原因の一つは,ある筋群を収縮させるとき,それ以外の筋にも収縮信号が達してしまう神経機構があるからである。つまり,スポーツでの優れたパフォーマンスの実現には単に必要な筋を収縮させるばかりではなく,「不必要な筋を収縮させない(リラックスする)」ことの実現が不可欠である.本研究では,複数肢協調動作を実験モデルとして,リラックスに関わる神経機構を明らかにする.この目的に向け,同側手・足関節を対象に,一方の関節で筋収縮を,同時にもう一方の関節で筋のリラックスを行う時に生じる相互作用を動作のパフォーマンスについて明らかにした.被験者は、健常な成人男性10名である。被験者は座位をとり、右手関節に関しては動作が右手関節の背屈動作に限定されるような装置に固定した。右手足の関節角度はゴニオメータにより記録し、タスク中の筋活動を調べるために前脛骨筋(TA)、腓腹筋(GAS)、ヒラメ筋(SOL)、総指伸筋(EDM)および尺側手根屈筋(FCU)において筋電図を記録した.被験者は目を閉じた状態で、右手関節の背屈と右足関節の背屈(タスク1)、右手関節の背屈と右足関節の脱力(タスク2)、右手関節の背屈(タスク3)、右足関節の背屈(タスク4)、右足関節の脱力(タスク5)、を行った。被験者は、タスク3、4では、ブザー音を合図に脱力した状態から全速で背屈するよう指示された.また、タスク5では、ブザー音の合図で随意的な足底屈力を発揮せずに全速で脱力するよう指示された。まず手関節の動作では、筋弛緩を伴う二肢運動であるタスク2は一肢運動であるタスク3と比べて反応時間が有意に遅くなっていた.一方で、筋弛緩を伴わない二肢運動のタスク1とタスク3を比べても反応時間に有意な差は認められなかった.よって、脳が筋に送る指令を処理する早さは『何か所』に指令を出すか、ということより『何種類』の指令を出すか、ということに関連しているようである.筋弛緩を行う際、手関節伸筋の収縮を伴うタスク2に比べて、一肢の運動であるタスク5ではTAの弛緩がスムーズに行われた。以上のように『収縮』と『弛緩』という異なるタスクを行うときは両者が相互に影響を及ぼすといえる.