表題番号:2008A-049 日付:2009/03/16
研究課題液体水素ターボエンジンの起動制御に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 佐藤 哲也
研究成果概要
 本研究では、小型の液体水素ターボエンジンの起動制御手法を確立するために、熱物性モデルを組込んだ非定常シミュレーションを実施し、実験と比較した。
 対象としたエンジンは、JAXAで研究開発中の予冷ターボエンジン(Sエンジン)である。Sエンジンの燃料制御、特に主燃焼器の起動時には、無冷却タービンの温度制限値(950 ℃)を越えないように、かつ、目標回転数へと短時間で到達させなければならない。さらに、液体水素が供給されると配管やバルブの熱容量により蒸発し、流調弁において、気相、気液二相、液相と変化し、密度が急激に変動する。この急激な密度変動を制御することが、極めて難しく、これまでのエンジン試験でも運転シーケンスは確立していない。
 本解析では、市販のプラント用非定常解析コード(DYNSIM; Invensys Process Systems社製)に自作の液体水素伝熱流体モデルを組込んだ。配管やバルブなどを要素に区切り、物質収支、熱収支、圧力バランス等の微分方程式をオイラー法で解くものである。各要素には、材質、形状、CV値、熱物性値、摩擦係数等を与える。
 熱物性モデルに関しては、流調弁の上流側は、超臨界の単相熱伝達を仮定し、変化の激しい下流側は配管を10個のセグメントに分割し、それぞれのセグメントごとに、流体のクオリティ、伝熱面過熱度に応じて場合分けし、熱伝達率を計算した。蒸発器の出口以降は、完全に気相であるため単相強制対流熱伝達とした。なお、圧力損失に関しては、全ての領域で単相を仮定した。
 実験は、JAXA大樹宇宙実験場において2008年11月に行なわれた。水素流量の時間変化を比較したところ、定性的な傾向はあっているものの、定量的には大きくずれている。ずれの要因としては、二相状態の熱伝達解析の誤差や流調弁のCV値の推測誤差が考えられる。また、シミュレーション結果によると流調弁の位置とオリフィスの位置で、非定常的に流量が一致していないことがわかった。今後、物性モデルの高精度化を実施する。