表題番号:2008A-045 日付:2009/03/25
研究課題過去の大気汚染履歴を表層土壌から解明する手法の開発および途上国公害問題への適用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 香村 一夫
研究成果概要
(研究概要)過去に大気汚染が激甚であった三重県四日市地域を対象フィールドとして研究を進めている.その理由は公害による健康被害データが整理されていたことによる.現在当該地域における過去の公害データを収集・解析し,大気汚染の拡散ゾーンと健康被害の関係を検討中である.一方,汚染履歴は表層の堆積物に残存しているという仮定に基づき,本年度は地域内約20地点で表層土壌を採取した.また,地域内にある数ヶ所のため池から底質柱状試料を採取した.これらの試料のうち,前者は汚染の平面的な広がりを,後者は汚染履歴を知るために使われる.各試料に含まれる重金属濃度および球状炭化粒子数の分析,さらに底質柱状試料の年代測定を経て,本手法の有用性が確かめられる.
(研究結果)本年度得られた成果を以下に記す.
①表層土壌試料に含まれる人為的な影響の強い重金属は,Cu,Pb,Zn,V,Niである.しかし,各重金属濃度の平面的な分布には汚染物質の拡散状況を暗示する傾向は認められなかった.これが,現在用いている試料の採取法に影響されたものであるかの判断を,つぎの方法によって検討した.
②①の検討のために,深さ3cmごとに分取した試料に含まれる重金属濃度分析および球状炭化粒子の含有数分析を試みた.その結果,深さ約10cmまでの表層土壌に重金属や球状炭化粒子の付加が顕著であり、これに基づいて最適な採取方法を検討中である.また、これと併行して,球状炭化粒子の分析・計数方法を確立した.
③今回採取した,ため池底質柱状試料において,大気汚染の激甚であった時期を示すような明瞭な重金属濃度トレンドがでたのは1柱状試料であった.この試料における球状炭化粒子数のトレンドは重金属のそれとよい相関を示している.現在,この試料における年代測定を実施中である.
(まとめ)表層堆積物中の重金属および球状炭化粒子の両者を用いることにより,過去の大気汚染の広がりと履歴を正確に把握できる.今後,四日市地域で前述のような調査を密に実施して,各種ゾーニングマップを作成する予定である.これらの結果と過去の公害資料より解析した結果を比較・検討することから,土壌中の人為起源降下物質濃度と健康被害の関係式を導出する.