表題番号:2008A-044 日付:2009/03/27
研究課題新規面不斉有機触媒の開発とその不斉反応への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 鹿又 宣弘
研究成果概要
[10](2,5)ピリジノファンの6位に置換基を有する架橋ニコチン酸(A),および [10](3,6)ピリジノファン骨格を有する架橋ピコリン酸(B)を面不斉素子とするキラル四級アンモニウム塩を合成し,相間移動触媒型の不斉アルキル化反応について検討した.これらの反応では,触媒と基質のπスタッキングが有効に機能していることが提案されている.そこで本研究では,基質として用いるグリシンエステル誘導体のベンゾフェノンイミン部位のフェニル基を,より有効なスタッキング機能が期待できるα-ナフチル基で置き換えた新規グリシン誘導体を合成し,このものの立体選択性における影響について検証した.その結果,Aを不斉源とするフェナントレン型の触媒と新規基質との反応では,最大58%eeで(S)-フェニルアラニン誘導体が得られることを見いだした.一方,ピリジンの構造因子が不斉反応に与える影響を評価するため,Aとピリジン窒素の位置が異なるBを組み込んだキラル四級アンモニウム塩を用いて不斉ベンジル化を検討した.結果として,生成物を与える立体選択性が逆転し,(R)-フェニルアラニン誘導体が約30%eeで得られるという対照的な結果を与えた.このことは,反応系内で生じる新規基質のエノラートイオンが従来のフェニル基由来の基質と同様,A,Bそれぞれの不斉源をもつ触媒で異なる面が遮蔽されていることを示唆するものであり,ピリジノファン窒素原子の孤立電子対がエノラートイオンの接近方向を制御している可能性を示唆する結果といえる.しかしながら,α-ナフチル基を有する新規基質では何れの場合も不斉収率は低下しており,当初期待したπスタッキング効果による不斉収率の向上は得られなかった.この原因として,α-ナフチル基の導入により基質のかさ高さが増し,収率が低下すると共に望む立体化学を与える選択性も低下したことが考えられる.