表題番号:2008A-043 日付:2009/03/16
研究課題インシュリン分泌機構の遺伝子改変マウスを用いた検討と糖尿治療への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大島 登志男
研究成果概要
我々は、Cdk5がL-typeカルシウムチャネルのリン酸化を介してインシュリン分泌を負に制御している事を報告し、Cdk5阻害剤の糖尿病治療薬への応用を示唆した(WeiらNat. Med 11, 1104, 2005)。Cdk5阻害によるインシュリン分泌の亢進作用は、高血糖時に顕著となるため、糖尿病薬の副作用である低血糖が起こさず、従来の治療薬とは作用点の異なる薬剤となる可能性がある。2005年の報告の際には、Cdk5活性が低下したマウスモデルとしてp35欠損マウスを用いた。p35はCdk5の活性化サブユニットであり、Cdk5はp35とのヘテロダイマーで活性型となる。p35欠損はCdk5の活性低下を来すが、全身性に遺伝子欠損の影響が出るため、Cdk5活性低下によるインシュリン分泌亢進がベータ細胞での直接的効果である事を示すに至らなかった。この問題をクリアするため、より適切なモデルマウスを作製する必要がある。
 本研究では、insulin-promoter下にCdk5DNを発現するトランスジェニック(Tg)マウスラインを確立し、その解析を行った。ラインを確立した4系統のうち2系統でTg由来のCdk5DNタンパク質の膵臓ベータ細胞特異的な発現が確認された。Cdk5DNの発現により、インシュリンの分泌が亢進する事が期待されたが、Tgマウスにおいては、Cdk5DNの発現レベル依存的に、ベータ細胞が減少し、6週齢で糖尿病状態を示した。ベータ細胞の減少が観察される時期を検討した結果、生後10日目には既にラ氏島の縮小とベータ細胞数の減少が認められる事が明らかとなった。今後は、このベータ細胞の減少が、増殖の低下によるものか、アポトーシスなどの細胞死の増加によるものか、検討を行う予定である。今回の研究により、Cdk5活性の低下はベータ細胞の生存にも関与する事が初めて明らかとなった