表題番号:2008A-001 日付:2009/11/21
研究課題EUにおける高齢者政策と社会福祉行政
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 福田 耕治
研究成果概要
 人口高齢化は、社会的なリスクとして捉えることができる。なぜなら少子高齢社会化に伴う生産労働力の低下は、高齢者を支える財政基盤の脆弱化、経済成長の鈍化につながると考えられるからである。日本と西欧諸国は、OECD諸国の中でも最も高齢化が進行しており、これが社会的リスクを高めている。OECDの報告書によれば、65歳以上人口は、2050年までに、3人に1人以上になると推定されている。少子高齢社会化の進行に伴い年金給付費および医療保障費の対GDP比が年々高まっていくことは避けられない。そこで高齢人口の高い雇用率、労働力率を維持できるよう高齢者の労働市場を改善し、強化する必要が生じる。高齢者人口の増大とネオリベラリズム的改革は、高齢者一人ひとりの年金や医療費、社会保障費などの削減をもたらした。これは、高齢者にとっては経済的負担の増加を意味し、貧困であれば医療アクセスへの困難性から健康リスクの増大ともかかわってくる。そこで2001年3月ストックホルム特別欧州理事会では、雇用の拡大、特に高齢者雇用・高齢者福祉政策の目標設定と共通評価制度、男女間賃金格差の解消等が合意された。さらに2002年3月バルセロナ欧州理事会では、2010年までに、2000万人の雇用を創出し、EU全体の就業率を70%まで上げ、女性の就業率も60%以上に、また高齢者の就業率も50%に引き上げる目標を設定した。その実効性の検証が課題となる。
 本稿では、リスク管理とはいかなるものかを概観した後、以上のようなEUのリスク管理の一つの事例として、第1に、EU・欧州諸国が当面する人口学的状況と課題を明らかにし、この課題に対応するための高齢者雇用の現状と雇用可能性を検討する。第2に、EUの高齢者政策を取り上げ、CSR活動とリスク管理の関連性を考察してみたい。第3に、高齢者の就業・引退決定に影響を与える老齢年金制度などの所得保障や医療保障をめぐる問題を検討し、高齢労働者の雇用可能性と社会的リスクの制御をめぐる諸問題を考察した。