表題番号:2007B-298 日付:2012/04/24
研究課題重工業地域における循環型工業地域システムの構築に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 本木 弘悌
研究成果概要
 本研究の目的は、鉄鋼業地域における循環型工業地域システムの構築に関して、事例研究を蓄積することにより21世紀の工業地域の姿を明らかにすることにある。具体的には、製鉄所を中心とした工業地域における工業振興の先進地域を調査し、その国際比較を行うことである。
 申請者はすでに日本国内における重工業地域の循環型工業地域システムの構築に関して、川崎と北九州の調査を行い、その成果は国際学会(International Geographical Union Commission on the Organization of Industrial Space)にて発表し、この研究論文は学会誌(New Economic Geographies)に掲載された。これは両地域の製鉄所遊休地にリサイクル型の工場が集積することより、いわゆる静脈産業を成立させ、循環型工業地域システムの構築について考察したものである。そこで本研究はヨーロッパの工業国であるイタリアにおける、循環型工業地域システムの構築について実態調査を行い、日本の循環型工業地域システムとの比較を行った。
 調査対象地域はプーリア(Puglia)州ターラント(Taranto)の鉄鋼業地域である。実態調査の結果、ターラントは製鉄所を中心とした工業地区と市街地地区は隣接しており、公害問題は大分改善されたものの、住と工の共存にはまだ多くの課題を残していることが明らかになった。地域にとって製鉄所は未だに地域経済の重要な柱であり、共存環境の整備には製鉄所に依存する地域住民の複雑な立場が反映されている。また循環型工業地域システムの構築はあまり進展しておらず、製鉄所の所有者が変更されたことも影響している。イタリア南北経済格差是正の柱の一つとして操業したターラントの製鉄所は、現在でも格差是正という課題解決の期待を担っているものの、循環型工業地域の構築という今世紀工業地域の課題に対しては、日本に比べると多くの課題が未着手であることが明らかになった。