表題番号:2007B-292 日付:2008/11/20
研究課題グローバリゼーションの進展とナショナリズム国家観の相剋―日独憲法学からの比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 戸波 江二
研究成果概要
グローバリゼーションの進展は、政治・経済・社会の領域でさまざまな変化をもたらしているが、憲法学の観点からは、主権国家の動揺とともに、国家内の政治・経済・社会のしくみが国際組織をはじめとする外部組織によって決定を受け、ないしは影響を被ることを意味する。そこでは、国家の独自の決定権が制約を受け、国際的な政治決定ないし動力によって制約されることになる。このような国家主権の動揺と国際勢力の国内政治への影響という点は、プラスの面とマイナスの面をもち、その評価はそれぞれの国家によって、あるいは、国内のそれぞれの政党ないし政治勢力によって見方が異なる。
マイナス面では、グローバリゼーションが自由な経済交流と自由市場を要求し、それに対応して国内での規制緩和と経済活動の自由が尊重されるために、中小企業・産業の保護、社会保障・労働保護といった社会政策が後退せざるをえず、その結果として、格差社会が招来することである。他方、プラス面では、外国人の人権とその規制のあり方、通信・放送手段の発達に見合った情報流通の確保、テロ対策や麻薬等の国際犯罪のための協力、などの国際化が進展するが、より根本的には、グローバリゼーションによる価値の統一化とともに、自由・人権・民主・平和といった「普遍価値」の共有化され、世界規模での「立憲主義化」が進展することである。
ところで、日本の政治では、グローバリゼーションに対抗して、むしろ靖国参拝や教育基本法改正など、日本型ナショナリズムを重視する動きが顕著である。しかし、「グローバリゼーションの下で日本人のアイデンティティ」を求めることは、グローバリゼーションにおける価値の普遍化に逆行するうえ、日本人アイデンティティが国家主義イデオロギーと結びつけられることになる。
グローバリゼーションによる価値の普遍化を積極的に承認し、その普遍的価値に立脚する日本国憲法を日本の政治の基礎文書、合意文書としていくことこそがグローバリゼーションの進展に適合する。