表題番号:2007B-269 日付:2008/03/24
研究課題年少者に対する日本語教育の実践方法と専門家養成に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院日本語教育研究科 准教授 池上 摩希子
研究成果概要
 本研究においては、今年度は以下の2点を重点的に実施した。
①日本の学校教育現場における年少者日本語教育の状況を知ること
②そこで求められている日本語支援の実際とそれに沿った「専門家」の養成に必要な内容を知ること

①に関しては、当該研究に対して提供された研究費を使用しての現場訪問を二件実施できた。
(愛知県石浜西小学校、三重県鈴鹿市桜島小学校)
また、研究費の支出を伴わない訪問も、先方からの要請により行うことができた。
(京都市立池田小学校、千葉県市川市立塩焼小学校など)
これらの学校において授業見学や担当教員との面談を行い、また、校内研修会を実施した結果、
明らかになったことは、
・小学校の現場では、初期指導の次の段階での指導方法を模索している。
・滞日歴が長期化しているJSL児童の日本語リテラシーの伸長に苦慮している。
・これらの課題は集住地域、点在地域に関わらず、共通の課題となっている。
などが上げられる。
 こうした状況下、学校教育現場では日本語教育に特化した「専門家」の支援を求める傾向があるが、
その「専門性」に関しては具体的な内容を定めることができていない。
これはむしろ日本語教育領域での重要な課題であると考える。
 この課題が上記②に結びついているのであるが、学校教育現場で求められていることがらと、
児童の日本語習得状況との関連に問題が認められた。つまり、児童の言語状況の把握が必ずしも
確定できているとは言えない場合が多く、その中で、学校にとって「今、必要な日本語」が
求められがちだということである。児童の第一言語を含む言語能力の把握とその結果に対応した
支援方法の確立を目指さなければならない。こうした具体的な課題の解決について、来年度以降も
引き続き研究を継続していく予定である。
 なお、今年度進めた研究の過程で、海外における継承語としての日本語教育の現状に関しても
事例を通してではあるが知ることができた。フランスにおける聞き取り調査による西ヨーロッパ地域の概況
としては、その地域で使用されている言語と日系児童のおかれている家庭環境によって、
継承語としての日本語の問題が顕在化している地域とそうではないと地域がある。
また、タイ2都市(バンコク、チェンマイ)における聞き取り調査では、同国内であっても
都市部と地方では滞在する日本人とその家族の事情や状況が異なることから、子どもにとっての
「継承語」の意味も異なる。ポーターレス時代を迎えた社会状況から考えても、
海外での年少者日本語教育の課題は日本国内の年少者日本語教育の課題と密接に関わっている。
今後、こうした事情も含めて、年少者日本語教育の「専門家」養成について考察と実践を進めていかなければならない。