表題番号:2007B-262 日付:2008/06/11
研究課題感染症対策のための保健・環境衛生教育―HIV/エイズとマラリア予防を例として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院アジア太平洋研究科 准教授 勝間 靖
研究成果概要
「万人のための教育(Education for All: EFA)」世界会議が1990年にタイのジョムティエンで開催されて以来、基礎教育の拡充は国際的に重要な目標となった。EFAに取り組むうえでの分野横断的な課題の一つとして、健康教育とライフスキル(生活技能)の普及がある。EFAの達成にとって、健康の課題を避けて通ることはできない。それは、子どもの教育と健康との間には密接な関係があるからである。このことは、例えばHIV/エイズの広がりによって教育システムそのものが崩壊しつつある地域があることからも明らかであろう。しかしながら、これまで十分に取り組まれてきたとは言い難い。教育と健康の両者を、それぞれ別分野の課題として扱う傾向があり、分野横断的に捉えようとしてこなかったことが原因の一つではないかと思われる。以上のような背景から、本研究においては、健康教育という課題を中心に取り上げながら、教育と健康に関するグローバルな課題におけるライフスキルの意義に注目した。「世界教育フォーラム」が2000年にセネガルのダカールで開催されたが、そこで採択された『ダカール行動枠組み』においては、ライフスキルの普及が明示的に謳われた。子どもの教育と健康との関連性については長らく指摘されてきたが、それでは健康教育がどのように行われるべきかについては十分に議論されてこなかった。また、ライフスキルについても、その概念についてさえ、はっきりとした合意があるとは言えない。
 研究成果としては、HIV/エイズに焦点を絞りながら、教育と健康をめぐって行われてきたこれまでの議論を整理した。まず、EFAを脅かすものとして、HIV/エイズを中心とした疾病の問題をあげた。例えば、具体的には、HIVに感染した教員が、教育の現場から離れざるを得ない事態が生じている。また同時に、HIV/エイズの影響を受けた子どもが、教育を受ける権利が収奪されている点についても指摘した。そして、次に、学校保健についての国際的なアプローチと、そこにおける健康教育の位置づけについて説明した。さらに、HIV/エイズに関連した健康教育のあり方について整理した。健康教育の内容と方法について、ライフスキルを重視した視点から見た。そして、最後に、2000年のミレニアム・サミットと国連特別総会において採択された『国連ミレニアム宣言』と、それに派生する「ミレニアム開発目標」の達成を国際社会が目指す中で、国際教育の目標と国際保健の目標との双方を繋ぐ概念として、EFAの議論の中から発展してきたライフスキルが重要な役割を果たすことを論じた。