表題番号:2007B-254 日付:2011/11/24
研究課題国際裁判における訴訟戦略からみた国際法の理論と実際
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 准教授 池島 大策
研究成果概要
 本研究は、国際社会において国家間の紛争を解決する一手段としての国際裁判を通じて、当事国がどのような視点から訴訟の過程を組み立て、自国に有利な結論を得るように精力を傾け、国際法をはじめとした法理論を展開しているのかを探り、かつ実際に裁判の結果はいかなるものであったのかや、理論と実際(判決内容)との間にどのような差異が生じたのかを分析することを主眼として行われた。
 とりわけ、ハンブルクにある国際海洋法裁判所(ITLOS)では、最近、沿岸国により拿捕された船舶の早期釈放を含む事件が処理されてきているが、その背景には、国連海洋法条約を中心とした新しい海洋秩序の下で、資源管理のために沿岸国が行使する機能的管轄権と、漁業に従事する船舶の活動を根拠付ける権利との競合が顕著となってきていることが注目されている。中でも、沿岸国が自国の排他的経済水域(EEZ)およびその周辺において自国資源(生物資源)に対する権利の主張がとみに強くなり、権利行使の態様と競合に関して沿岸国と漁業国との見解の対立に注目が集まっている。
 強硬な取締りを行う沿岸国に対して、漁業を行う漁業国との軋轢の結果、ITLOSにおいては、意図的に拿捕された船舶の即時釈放を求める決定を求めて一連の訴訟が提起されている。この背景にあるのは、資源保護を主眼とする沿岸国の拡張する権利行使と、他方、希少な資源を少しでも多く手中にしようとする漁業国の中には違法、無法国、無規制の漁業(IUU漁業)に従事するものが少なくない現状とがある。
 したがって、最近の海洋資源保護に対して敏感な世界の動向は、ITLOSの判例の傾向においても少なからず見られ、IUUの危機を意識して海洋資源は管理される方向性が強まっていることがうかがい知れる。その結果、訴訟戦略上も、理論の優劣は別として、こうした視点を押し出した議論が裁判の行方を左右する傾向が少なからず見られるようになっているといえる。