表題番号:2007B-252 日付:2008/03/11
研究課題フェミニズム言語学がドイツ語に与えた影響の再検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 教授 岡村 三郎
研究成果概要
フェミニズム言語学がドイツ語に与えた影響の再検討

1970年代末からのドイツのフェミニズム言語学は、ドイツ語の使用を家父長的な世界観の現れとして攻撃し、その結果として公の言語使用においては「総称(generic)男性名詞」や「未婚女性」を意味するFraeuleinが使われなくなった。
これまでの研究では、フェミニズム言語学の直接の影響によって1980年代以降のドイツ語は顕著に変化したと見るのが通説(Antos1996)である。しかし私はこれまでの実際の使用例の研究(岡村2003, 2004a, Okamura 2004b, 2005b, 2006)を通じて、この通説の再検討が必要であることを示してきた。これまでの研究の一環として本研究では、lexis.comのドイツ語新聞・雑誌データベースを利用しFraeuleinwunder(フェミニズムの影響で使われなくなったとは考えられているFraeuleinの派生語)の1990年代以降2007年までの実際の使用例とその意味の変遷を詳細に検討し、Fraeuleinwunderにおいては「未婚」というステイタスを示す用法はほとんど無く、むしろ「未婚」「既婚」の違いなく「女性」一般を誉め讃える語として使われており、それは1999年の女性作家たちに対しての用法、そして2006年のサッカーワールドカップ時の女性ファンを讃える用法に顕著であることを示した。この点はすでに調査(Okamura2006)したFraeuleinの新聞での使用と同様であり、これらの語がフェミニズムの影響で完全に消滅したわけではなく、むしろこれまでとは別のニュアンスを持つことによってドイツ語に存続していることを意味している。この変化にフェミニズム言語学がどの程度関与していたかについてはさらに検討されるべきだが、少なくともFraeuleinという語はフェミニズムの影響によりほとんど消滅したとする説(Paul2002)は再考する必要があることを示した。