表題番号:2007B-225 日付:2008/03/24
研究課題水温の広域シミュレーションモデルを用いたハマダラカの生息域評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 太田 俊二
研究成果概要
本研究プロジェクトでは、マラリアを媒介するハマダラカのアジア地域での生息域判定を行うための基礎をなす水温評価モデルのブラッシュアップを目的の中心に置き、一年間活動してきた。モデルの精度向上はある程度達成し、農学系国際誌で高いインパクトファクターをもつAgricultural and Forest Meteorology誌に掲載(1)された。このモデルでは入力値として一般気候データと植生の繁茂のタイミングといったフェノロジーさえわかれば、0.5℃以内の精度で日平均水温を予測できる。これにより、ハマダラカの生息域を大きく左右する水温情報を広域にかつ高い精度で得ることが可能となった。また、ハマダラカは植被のない水たまりで生息するので、まったく植被のない状態の水面から植被が徐々に発達した水面までを仮定してそのときどきの温度変化や熱収支を明らかにした(2)。その結果、ハマダラカが生育する多様な地域特性を多面的に評価することが可能になった。
一方で、ハマダラカの生息域を特定するための基本モデルとなるハマダラカの世代数の推定を試みた。熱帯性の生きものであるため単に年平均気温や年間降水量ではその分布域を十分に説明することはできないが、生息可能な温度域が連続3ヶ月続くかどうかといった単純な仮定をおいた世代数判定モデルだけでも現在のハマダラカの分布域に極めて近くなった。本年度の仮計算では気温を使っているが、これを先に説明した水温評価モデルによる水温情報を入力値として活用すれば、さらに分布判定の精度が高まることが期待される。具体的にはハマダラカの生育前期(ボーフラ)を水温、生育後期(成虫)を気温によってその活動を決定することで、生活史と気候の対応関係を含めた生理生態的なモデルとして発展していく予定である。なお、本研究においてはモンスーンアジア地域の気候データについて空間解像度を経度緯度15分格子、時間解像度を旬(10日)で整備しており、高速な計算機資源があれば来年度すぐにシミュレーションを開始できる準備が整ったと言える。