表題番号:2007B-209 日付:2008/02/21
研究課題権限委譲と組織内の行動規範
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 井上 正
研究成果概要
本研究では、パートナーシップ企業のような単階層組織の管理形態と、プリンシパル、スーパーバイザー、エージェントからなるプリンシパル・エージェント企業のような多階層組織の管理形態の比較を行う。一般に、パートナーシップ企業は全エージェントにアウトプットの均衡配分を行い、エージェントが相互に自己規制し合うことで組織管理を行おうとする。これに対し、プリンシパル・エージェント企業は、モニタリングとインセンティブという管理機能をその組織内に組み込み、エージェントの行動を強制的に規制しようとする組織管理である。本研究では、プリンシパル・エージェント企業でもパートナーシップ企業の自己規制による組織管理(エージェント間の相互圧力による集団規範の遵守を通しての組織管理)が補完的に機能することを明らかにする。ところで、プリンシパル・エージェント企業は、上述のようにプリンシパルに残余請求権を与えることで、強制的な規制を行う管理制度である。したがって、インセンティブ制度は、エージェント間の結託の誘発を阻止するために導入された管理制度といえる。ところが、多階層組織を考えたとき、エージェント間の結託阻止のために組織に導入されたインセンティブ制度は、スーパーバイザーとエージェント間に結託を誘発する可能性がある。このとき、プリンシパルはスーパーバイザーに対するモニタリング制度を通じてそのような結託の誘発を阻止しようとする。このことは、なぜ、組織がある場合にはパートナーシップ企業の形態をとり、ある場合には、プリンシパル・エージェント企業の形態をとるのか。また、どのような場合に、モニタリング制度とインセンティブ制度を持つプリンシパル・エージェント企業が自己規制的な管理形態をもつパートナーシップ企業より優れているのかを明らかにできることになる。特に、本研究では、パートナーシップ企業の自己規制による組織管理(エージェント間の集団圧力の相互作用による集団規範の遵守)と同様に、プリンシパル・エージェント企業においてもエージェント間およびスーパーバイザー間でも集団圧力による集団規範の遵守が、モニタリングおよびインセンティブ管理を補完する管理機能となることを示す。