表題番号:2007B-196 日付:2008/03/25
研究課題宇宙線中の超重核観測装置の展開と格納機構の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 長谷部 信行
(連携研究者) 理工学術院 客員講師(専任扱い) 晴山慎
(連携研究者) 理工学術院 助手 小平聡
研究成果概要
 銀河宇宙線中の同位体を含めた超重核の元素組成の詳細測定は、宇宙線の起源や年齢、銀河物質の歴史、粒子加速や輸送機構等の解明に有力な情報をもたらす。しかし、宇宙線中に占める超重核成分のフラックスは極めて小さく、観測には数m2にわたる大面積の宇宙粒子線検出器が求められる。
本研究ではこの宇宙粒子線検出器の宇宙空間への展開機構について検討を行なうと共に、高性能な宇宙粒子線検出器の開発を中心に行った。展開機構については、1つの宇宙粒子線検出器を20cm*20cm*5cm程度にモジュール化し、それらを2次元アコーディオン方式によって数m2以上に展開する機構が最も我々の宇宙実験における信頼性と確実性が得られることが分かった。
 高性能な宇宙粒子線検出器の開発については、曝露面積の拡張性と粒子識別能力の高さからCR-39固体飛跡検出器に着目した。しかしながら従来のCR-39では原子番号の低い重イオンに対して高感度過ぎるために、超重核検出においては不向きであった。そこで本研究では、既に基礎開発を終えているCR-39-DAP共重合体検出器について、その重合のキュアリングサイクルおよび混合比率の最適化ついて詳しく検討した。また並行してこれまで基礎研究を行なってきたBP-1ガラスの組成の最適化や構造の一様性について研究を行った。
 CR-39-DAPについては、均一性・粒子識別能力が共に優れているBARYOTRAKを基材に、DAP樹脂を一定間隔割合で重合を行った。特に、重合度を上げる工夫として、通常のCR-39のキュアリングサイクルに加えて、+120度の加熱処理を行った。また、通常、重合促進剤として使用するIPPは3.3%添加するが、IPPを3.3, 5, 7%に変えたときの重合度と感度の変化について調べた。490 MeV/uのSiビームを照射し、その応答感度を調べたところ、+120度に加熱処理をした場合は、DAP混合比率の増加と共に線形的に応答感度を低下させることができた。これによりCR-39-DAP重合の最適化についてある程度の目処をつけることが出来た。
 BP-1ガラスについては、一連の重イオンビーム照射によって、固体飛跡検出器としての性能を確認した。一様性を高めたBP-1ガラスの製法について、オハラ(株)と議論しながら進めており、またBP-1を超える感度を有する超高感度ガラスについても検討を始めている。今後1年で優れた粒子識別能力を有してなおかつ超重核領域あるいは低エネルギー領域の粒子識別に威力を発揮する高性能固体飛跡検出器が開発できる見込みを立てることが出来た。