表題番号:2007B-164 日付:2008/03/24
研究課題電気振動現象を利用した味覚センサの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 専任講師 小堀 深
研究成果概要
【緒言】
 我々が生まれながらもつ五感のうち、味覚に着目した。味覚は基本味である甘味、酸味、塩味、苦味、うま味を区別できるが、この生体の感覚器の模倣として、油相に1-オクタノールを用いたオクタノール三相液膜の電位振動に関する研究を行った。この液膜系は電位振動波形から化学物質を識別できることから、複数種の化学物質を定性できる味覚センサとして期待される。
【実験方法】
 電位振動モデルを構築して、電位回復過程を再現した。本モデルでは、液膜間電位を左側界面電位と右側界面電位の差によって表した。さらに左側界面電位を一定として、右側界面電位をモデルから算出した。電位振動波形を再現するために、右側界面におけるドデシル硫酸イオンの吸着過程には実測した電位を代入し、脱着過程には既往モデルに用いたFickの拡散方程式とLangmuir-Hinshelwood式に対流式を加えた。Marangoni効果による対流は時間と共に減衰するため、対流速度は時間の経過に従って減少する関数とした。そして、再現した電位振動波形を、対流速度を0としたときのモデルにおいて再現した電位振動波形と比較することにより、対流が電位振動のモデルに及ぼす影響について検討した。
【結果および考察】
 対流速度を0としたときのモデルにおいて計算された電位振動波形は、実測の電位振動波形を再現できなかった。よってモデル構築には、界面活性剤の吸脱着・拡散以外の要因を考慮する必要がある。
モデルの波形と実測した波形を脱着過程において比較すると、モデルの波形では電位回復が全体的に緩やかであるのに対し、実測した波形では電位回復が脱着開始時に急で、ある程度時間が経過すると緩やかになるという違いがある。よって、実際の現象を考慮した電位振動のモデル構築には、脱着開始時において脱着を促進かつ時間経過に従い脱着を抑制する因子が存在すると考えられる。このような因子としては、右側界面にドデシル硫酸イオンが吸着したときに起こる静電気的反発がある。これを考慮すれば、実際の現象を考慮した電位振動のモデルを構築できると考えられる。
【結言】
 電位振動のモデル構築には、界面活性剤の吸脱着・拡散以外の要因を考慮する必要がある。対流が電位振動モデルに及ぼす影響は小さい。