表題番号:2007B-161 日付:2013/10/23
研究課題特異な共役系をもつ含芳香環生理活性物質の全合成研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 細川 誠二郎
研究成果概要
酸化度の高い多環式構造の収斂的構築を実現し、アレルギー治療薬として期待されるTMC-264や抗腫瘍性化合物F390Bの初の全合成に成功した。また、エンドセリン転換酵素阻害剤TMC-66の初の不斉全合成も達成した。
TMC-264の合成においては1,2,3-トリメトキシ-5-メチルベンゼンの選択的脱O-メチル化によるジオール体の合成および位置選択的臭素化、位置選択的メトキシメチル化を実現し、ベンゼン環に6つの異なる置換基を持つ化合物の選択的合成に成功した。また、分子内に2つのハロゲン化アリールを持つ化合物のニッケル(0)による環化反応において、二塩化エチルアルミニウムが劇的に反応を加速することを見いだし、ニッケル(0)とルイス酸によるビアリール化法を開発した。
これらの新規化学反応を確立し、TMC-264の初の全合成に成功した。本合成によって得られたラセミ体TMC-264をN-トシル-L-フェニルアラニンと縮合し、光学分割を行った。(+)-および(-)-TMC-264をそれぞれ結晶化し、両鏡像体の絶対立体配置をX線によって決定した。この結果天然物である(-)-TMC-264は1R配置であることを解明した。
抗腫瘍性化合物F390Bにおいても、2つの芳香族フラグメントを連結させ、酸化的O-Cカップリングによって基本骨格を構築した後、コンフォメーション操作による立体化学調整を行い初の全合成を達成した。
加えて、不斉炭素を2つ含む7環式化合物TMC-66の初の不斉全合成に成功した。本化合物は左右の3環式セグメントをそれぞれ短段階で合成し、中央の環を分子内酸化的カップリングによって高収率で構築することによって全合成を達成した。この中央の環構築においては、新規の銅錯体を開発することによって、電子吸引基が付いたフェノール同士の分子内酸化的カップリングを実現した。
TMC-264およびF390Bの合成はいずれもラセミ体合成であるが、両化合物の全合成に成功したことにより、立体選択的合成を含む類縁体合成の礎を築いた。また、TMC-66の短段階立体制御合成に成功した。これらの全合成研究の中で複数の新規反応を開発し、芳香族化学の発展に寄与した。