表題番号:2007B-160 日付:2011/03/10
研究課題光学反射率を用いた動的比熱測定法の開発と固体中の二相共存状態への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 勝藤 拓郎
研究成果概要
 物質中において2つの相が競合する場合、臨界点付近で2相共存状態が現れることがある。この2相共存状態のダイナミクスを特徴付ける物理量として、相境界が移動する緩和時間τが挙げられる。このτを測定するには、物質の温度を周期的に変調し、それに対するバルク量の変調を測定すればよい。すなわち、温度変調の周波数を大きくすると、相境界の移動が追随できずバルク量の変調が小さくなるため、バルク量の周波数依存性からτを見積もることができる。
 従来、このような目的のために開発された実験手法として、3ω法と呼ばれる複素比熱測定法があった。しかしこの方法では、試料表面に直接金属を蒸着したものをヒーター兼温度計として用いるため、導電性の高い試料を測定できないという欠点がある。本研究において、導電性を示す物質の2相共存状態におけるダイナミクスを測定できる実験手法として、温度変調光学反射率測定系を開発した。時間変調したレーザー光により試料に周期的な温度変調を与え、それに対する光学反射率の変調を検出することにより、2相共存のダイナミクスを測定できる。
 本研究では、Srをドープしたペロブスカイト型マンガン酸化物R0.6Sr0.4MnO3の2相共存状態のダイナミクスを研究対象とした。本物質系は、低温で短距離電荷整列相と強磁性金属相が競合しており、相転移温度近傍においてこの2相の共存が期待される。R=Nd (TC=270K), R=Nd0.5Sm0.5 (TC=210K), R=Sm (TC=128K) の温度変調反射率測定の結果、すべての試料において、転移温度近傍で温度変調反射率にピークが現れた。また、最も転移温度の低いR=Smにおいて、最も顕著に周波数分散が現れた。このことから、低温で相転移を起こす物質ほど、相転移近傍の2相共存の相境界の緩和時間τは長い、すなわち相境界は動きにくくなることがわかった。