表題番号:2007B-133 日付:2008/03/31
研究課題陰的ラグランジュ形式に基づくマルチボディダイナミクスの統一的な解析手法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 吉村 浩明
研究成果概要
宇宙マニピュレータ,移動ロボットや柔らかい部材で構成される宇宙構造物などに代表される,いわゆるマルチボディシステムは,多数の剛体や弾性体がジョイントによって結合された極めて複雑な力学系であり,その構造系や制御系の設計・開発には,コンピュータを用いてダイナミクスの数値解析を行うことが不可欠である.マルチボディダイナミクスの数学モデルは,一般に,陰形式の非線形微分代数方程式(DAE)によって記述されることが知られているが,自由度の増大とともに,大規模かつ複雑化し,数学モデル自体の定式化が困難となる.さらに,数値積分においても,拘束条件に関するドリフト現象やスティッフ性による不安定性を招くばかりか,計算速度の面でも膨大な時間を要するなどの重大な問題を抱えている.したがって,マルチボディダイナミクスの定式化に際しては,安定かつ高速な数値積分のスキームを考慮した数学モデルの導出が必要であり,言い換えれば,モデリングから数値解析までを統一的な観点から行う解析手法の確立が不可欠である.本研究では,ディラック簡約の理論による低次元の力学モデルを実現し,付随する陰的ラグランジュ系の理論と方法を用いて,複雑な接続構造を有する大規模非線形力学系の数学モデルとして,陰的ラグランジュ形式の微分代数方程式を導き,安定かつ高速な数値積分までを可能とする統一的な解析法の開発を目的として研究を進めた.本年度は,以下の成果を得た.
(1)ディラック構造の簡約化理論について,配位空間がリー群で与えられる場合について確立した.これにより,今後,剛体運動に現れる,運動学的な関係とその双対な力学的関係を同時に簡約化できるようになり,必要となる低次元化された数学モデルの導出が効率よくできると期待出来る.
(2)(1)のディラック簡約に付随して,陰的なラグランジュ法を簡約化することによって,陰的オイラー・ポアンカレ方程式を導出した.今後は,これを応用することで,ロボット・マニピュレータの指先の運動に現れるような非ホロノミック拘束を受ける多剛体系のサスロフ問題の解析が可能となると期待できる.
(3)陰的ラグランジュ形式の微分代数方程式による数学モデルに対して,幾何学的拘束安定化法を開発した.これにより,数値的安定性の確保や演算時間の大幅な短縮が可能となる.