表題番号:2007B-119 日付:2017/03/23
研究課題金属錯体によるホウ素のセンシングとボロン酸による糖類検出機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石原 浩二
研究成果概要
 金属錯体の分光特性および発光特性が、配位子の電子供与性や立体的構造によって多様に変化することに着目し、これまで、2,2ユ-ビピリジン誘導体を有するルテニウム錯体([Ru(bpy)2(bpy-O2H)]+ (bpy = 2,2ユ-bipyridine, bpy-O2H = 2,2ユ-bipyridine-3,3ユ-diol))を検出場とする新規ホウ素定量反応の構築を検討してきた。本研究では、水に可溶でホウ酸との反応が速やかに進行し、発光特性の変化も大きく、ホウ素の定量試薬としてより有用な錯体であると考えられる[Ru(bpy)2(dhph)]2+ (dhph = 5,6-dihydroxy-1,10-phenanthroline, H2Ru2+)錯体によるホウ素の定量の条件を、1Hおよび11B NMR法、紫外可視分光光度法、蛍光光度法を用いて平衡論的速度論的に検討した。その結果、定量反応の熱力学的に最適なpHは約8.9であり、また、速度論的に最適なpHも約8.9であることがわかった。後者のpHが約8.9であるのは、H2Ru2+錯体に対するホウ酸の反応性が、H2Ru2+錯体とホウ酸イオンあるいはHRu+錯体とホウ酸との反応に比べてかなり低いことに起因している。H2Ru2+錯体の発光を利用すると、最適pHにおいて約1ppmのホウ素の定量が可能であることがわかった (Talanta, 74, 533 (2008).)。一方、ボロン酸による糖類の検出のメカニズムを解明するために、検出が行われるアルカリ性水溶液において反応活性種の特定を行った。従来、糖類の検出において反応活性であるのは、アルカリ性で支配的に存在するボロン酸イオンのみであるとされてきたが、この根拠は極めて薄弱であり、実際、上記の反応系においてpH = 8.9のアルカリ性に於いてもH2Ru2+錯体はホウ酸イオンと反応しており、しかも、ボロン酸イオンの反応性に関する定量的研究は今日まで皆無であることがわかった。そこで、我々はボロン酸イオンの反応性に関する基礎研究を行った。その結果、ボロン酸イオンの反応性はかなり低く、ボロン酸と同程度かそれよりも低いことがわかった。この結果は、従来のボロン酸による糖類の検出のメカニズムが正しくないことを示すもので、当該分野のみならず、ホウ素の化学全般に甚大な影響を及ぼす結果である (Inorg. Chem., 46, 354 (2007).)。